木質バイオマス利用に役立つ忘備録です。これは!と思った情報を随時アップして参ります。

2015年2月19日木曜日

FIT対応バイオマス発電所の収支はどうなっているのか?(その2)

前回は、32円/Kwhの未利用木材と、24円/Kwhの一般木材とが半々で使用される発電施設を想定しシミュレートしてみましたが、今回は、32円/Kwhの未利用木材のみで全量購入の場合をシミュレートしてみたいと思います。これだと売電単価は上がり売電収益は増えますが、はたして収支の見込みはどうなるのでしょうか?

ところで皆さんは、2月17日(火)放送のNHKクローズアップ現代「急増!バイオマス発電~資源争奪戦の行方~」をご覧になりましたか?木質バイオマス発電の課題を、業界の第一人者である熊崎実先生が、まさしく正論をわかりやすくお話されていました。

自分は、番組を後から見るため自分用に、動画ファイル(mp4)にして下記Yahooのフォルダに置きました。400MB近くありますが、あくまで、自分で後から見るため、です。
https://box.yahoo.co.jp/guest/viewer?sid=box-l-3duexsnptjwft2altem3ecblli-1001&uniqid=7412c10b-51dc-43a0-8fff-30b86447d513
(ダチョウ倶楽部風に)ダウンロードするなよ!絶対にダウンロードするなよ!・・・

さて、番組でも課題視されていましたが、バイオマス材の価格が高騰の兆しを見せています。番組ではこのあおりを食らって、岐阜県の製紙工場が原料の入手難に陥ってるとのくだりでした。他にも例えば、青森県の八戸バイオマス発電(出力規模12,100kW)では、燃料種に間伐材、製材端材、鉄道林間伐材、PKS等を使用する計画と発表され、間伐材については6,500円/トンで買い取ることを表明しています。また、九州大分では、7,000円/トンが相場となりつつある、との情報です。いずれも製紙用チップ材の相場(地域によって差はあるものの4,000円/トン以下と思われる)よりもかなり高い相場が形成されつつある模様です。製紙会社が買い負けするのも当然です。

FITの制度上、売電単価は20年間保証されるものの、原料となる木材の価格は状況と競争により変動するハズです。林業者にとってみれば、木材の相場が上がることは喜ばしいことかもしれませんが、番組中でドイツの例であったように、相場が上がりすぎて発電所が立ちいかなくなり倒産してしまっては、結局、全てが水の泡と化してしまう。その時になって、バイオマス発電に買い負けした製紙工場まで撤退していたならば、逆にマイナス要因ともなりかねません。要するに、行き過ぎたバブルはマズイだろう、ということです。今回は、こうした状況で発電所は本当にダイジョウブなのか?といったことを含めて検証してみよう、という趣向です。

※注:前回のブログアップ後にとある方から、「ここでのシミュレート結果はある仮定に過ぎないということを強調しておいたほうが良い」とのアドバイスを受けました。というのも、現段階では維持管理費やバイオマス材の価格は変動幅が大きく、特に維持管理費は業者によってまったく違う経費見積となる可能性があり、断定的な言い方はできないからです。


さて、さっそく計算してみますが、想定する発電所の規模は前回と同じ5MWクラスとします。ただし今回は、燃料は全て購入バイオマスとなります。
■発電出力    5,800kW(うち、施設内利用800kW)
■ボイラー形式  流動層ボイラー
■実際蒸発量   28,000kg/h(ボイラー出力17,500kW相当)
■蒸気タービン形式  抽気復水タービン
■建設費   3,000,000千円(30億円) ・・・ボイラーから発電施設まで一式
■木質バイオマス使用量  80,000トン/年

前提条件として、次のような単価等を設定します。
■売電単価  32円/Kwh(未利用木材)
■稼働日数  360日/年
■発電量    36,000,000Kwh ・・・5,000kW×24h×300日(実質年間稼働率83%)
■原木単価  6,000円/トン
■従業員数  10名×360日


以上の条件で収支を計算します。
■収益(売電のみ)
32円/kWh×36,000,000kWh=1,152,000千円 ・・・約11.5億円

■支出
燃料費  480,000千円 ・・・6,000円/トン×80,000トン
機械経費  98,000千円 ・・・当初の見積額
資材経費  363,000千円 ・・・当初の見積額
維持管理費  119,000千円 ・・・当初の見積額
人件費  54,000千円 ・・・15千円×10人×360日
減価償却費  100,000千円 ・・・建設費3,000,000千円/15年償却、補助金で1/2圧縮
(合計)1,214,000千円

■収支
-62,000千円 ・・・1,152,000千円-1,214,000千円

ややや、6千万円の大赤字です!まさか、実際にそんなはずはありませんね。


<推測その1>
では、どうして経営が成り立つか? それは前回も述べたとおり、機械経費、資材経費、維持管理費といった固定経費が、実際には見積り金額よりもディスカウントされているからだ、と見て間違いないでしょう。PCシステムソフトの「0円入札」のように、メンテナンスを行う事業者の思惑によって実際の契約額は大幅に異なると考えられるからです。

そこで、これら年間経費を仮に全て7掛けとしてみると、支出の合計金額は1,040,000千円となり、収支は、
112,000千円 ・・・1,152,000千円-1,040,000千円

これならOKです。実際の契約額や、その内訳・根拠はなかなか明らかになることはありませんが、発電所がそこそこ成り立つ金額になっているハズです。とはいえこのあたり、ブラックボックスの領域なので「言い値」の域を出ませんが。


<推測その2>
最初に述べたとおり、FITには原料価格高騰のリスクが付きまといます。では仮に、上記で想定した6,000円/トンから7,000円/トンに価格が上昇したらどうなるでしょうか?
計算は上記「7掛け」の積算に当てはめるだけで簡単なので省きますが、 収支は、

32,000千円 ・・・1,152,000千円-1,120,000千円

ギリギリセーフ!といったところです。トラブルさえ無ければ、利益分が3千万円毎年発生する、という皮算用ですが、さて、どうでしょう?


以上まとめますが、設備の維持管理にかかる固定費はブラックボックスの中であり、現状ではブレ幅の大きな過渡期にあること、また、原料となるバイオマスの価格は高騰する可能性があるため、発電所を計画する上ではこうしたことを十分に予測した上での収支計画が必要となる、ということです。電力供給のみのバイオマス発電事業は、FITの買取り価格が保証されているとはいえ、実は、極めてリスクの高い事業なんだなぁ、と感じました。自分だったら社長になるのは、、、ちょっとイヤですね(笑)

国は最近、バイオマス資源が逼迫していることを受け、発電所どうしが競合しないよう発電所の小規模化を打ち出してきましたが、これだけではダメで、なぜならこのことで売電単価はますます高いものになり、国民は単価の高い電気を無理やり買わされるハメになるからです。こうした動き・制度は、自然エネルギーを推進しているように見えて、逆に原発を推進しようとしている方たちに格好の突っ込みどころを与えているような気がしてなりません。というか、かえってマズイんじゃないかな。

こうしたリスクの無い、FIT制度に左右されないバイオマスエネルギーの利用形態は、はたして実現可能なのでしょうか?そのためにはどうしても、小規模分散型の電・熱併用の仕組みを確率していく必要があると考えます。その上での、バイオマスエネルギーによるグリッドパリティの可能性について、今後考察していきたいと思います。

2015年2月14日土曜日

FIT対応バイオマス発電所の収支はどうなっているのか?(その1)

すっかり更新をサボってしまいました、なにせ、2ヶ月近く更新していませんでしたからww
死んだわけではないので、またボチボチとアップして参ります。
さて、このブログで最も閲覧件数の多いテーマは、やはりバイオマス発電です。この1月末で全国で100件を超す発電の計画があるそうですが、これはひとえにFITの売電単価がインセンティブとなって、林業関係者、ボイラーメーカー、電力事業者、そして競合関係にある製紙や合板業界など、川上から川下まで様々な分野の方が興味を持ち、場合によっては参入の機会を伺っているからだと思われます。

今回は、FIT対応のバイオマス発電所の収支はどうなっているのか、入手した資料をもとに具体的に整理してみたいと思います。そうすれば、FITによるバイオマス発電という取組みを客観的に評価することができる、と考えたからです。発電所の収支計算は難しいものなのかと思っていましたが、整理してみると理解することができました。なお、具体的な事業体名は公表できませんのでご了承ください。

まず、想定する発電所の規模は、典型的な5MWクラスとします。また、今回は燃料として、購入によるものと、自社工場の端材チップとが半々の場合を想定してみます。
■発電出力    5,800kW(うち、施設内利用800kW)
■ボイラー形式  流動層ボイラー
■実際蒸発量   28,000kg/h(ボイラー出力17,500kW相当)
■蒸気タービン形式  抽気復水タービン
■建設費   3,000,000千円(30億円) ・・・ボイラーから発電施設まで一式
■木質バイオマス使用量  80,000トン/年(うち、自社チップ40,000トン/年)

前提条件として、次のような単価等を設定します。
■売電単価  32円/Kwh(未利用木材)  24円/Kwh(一般木材)
■稼働日数  360日/年
■発電量    36,000,000Kwh ・・・5,000kW×24h×300日(実質年間稼働率83%)
■原木単価  6,000円/トン(未利用木材・購入)  0円/トン(一般木材・自社)
 ※自社分の一般木材も、実際は運賃等の経費がかかるが、ここでは計算を単純にする
■従業員数  10名×360日


以上の条件で収支を計算します。
■収益(売電のみ)
32円/kWh×18,000,000kWh=576,000千円
24円/kWh×18,000,000kWh=432,000千円
(合計)約1,008,000千円 ・・・約10億円

■支出
燃料費  240,000千円 ・・・6,000円/トン×40,000トン
機械経費  98,000千円 ・・・当初の見積額
資材経費  363,000千円 ・・・当初の見積額
維持管理費  119,000千円 ・・・当初の見積額
人件費  54,000千円 ・・・15千円×10人×360日
減価償却費  100,000千円 ・・・建設費3,000,000千円/15年償却、補助金で1/2圧縮
(合計)974,000千円

■収支
34,000千円 ・・・1,008,000千円-974,000千円


以上、丸めた数字になりますが、およそこんな感じみたいです。ここで注目すべき点は、
1)自社工場からのチップ供給は極めて有利であること。大型の製材工場・集成材工場の場合、木材乾燥などに熱利用しても、自社工場から発生する端材チップは余る。このチップはこれまで、遠方の製紙工場に販売していたが、単価は高くないため運賃程度にしかならず、儲からない部門だった。これが24円/kWhに化けるのはオイシイ話。
2)機械経費、資材経費、維持管理費がとてつもなく高額であること。燃料費と較べればその大きさが理解できる。たしかにこの金額は当初の見積額なので、実際はこれの7割~8割の金額で契約しているものと推測されるが、それでも高額であることに変わりはない。ざっくり、売電収益の半分は持っていかれる、といった感覚だ。
3)その一方で、燃料費は収益の2割強とさほど大きくないこと。年間4万トンといえば相当なボリュームだが、このために、大勢の素材生産事業体が必死になってバイオマス材を供給してもこの程度なのである。
4)人件費や減価償却費も大きなものではないこと。30億円の設備投資も補助金が半分入れば、15年償却とすると年間1億年程度。なお、FITは20年の売電価格保証だが、この場合リスクを見て15年償却としている。


・・・計算していたら、なんだか殺伐とした気分になってきました。バイオマス発電が地域の森林資源活用の切り札のように言われつつ、その実態は、バイオマスの代金をはるかに上回る金額が中央のボイラーメーカー、タービンメーカーに毎年持っていかれる、これが現実なんだ。。。

こうして、多額の補助金まで投入して生み出された電気も、その売電単価はグリッドパリティ(※注)とは隔たりがあり、しかもこうした収支構造では、将来的にも単価の引き下げは難しいと言わざるを得ません。引き下げのためには、現在は捨てている熱も商品化し、電・熱併用で収益性を確保するなど、根本的にその収支構造を変えなければならないでしょう。
とはいえ、5MWクラスの発電施設ともなると、その発生する熱量は膨大なものがあり、他の木材産業とコンビナート化するなど工夫しないと熱の利用が難しいことも、また事実です。

国民だれしも、電気料金が値上げされることさえ無ければ、自然エネルギーの普及に異議を唱える人はいないハズです。しかし、単価の下がる見込みの無い自然エネルギーを、多額の補助金まで投入して見境無く推し進めれば、およそ全ての国民から大変な反発を食らうことになるのではないか?このとき、林業関係者までもが悪者扱いされるのではないか?そんな怖い思いがしてきましたww


今回は、購入と自社チップが半々の場合を想定してみましたが、次回は全量買取りの場合を想定して計算し、さらに考察を進めます。


※注:日本のNEDOは、家庭用電力並み(日本において23円/kWh)になることを第一段階グリッドパリティ、業務用電力並(同14円/kWh)になることを第二段階グリッドパリティ、汎用電源並(同7円/kWh)になることを第三段階グリッドパリティと定義している。

2014年12月21日日曜日

木質ガス化コジェネレーションを見学しました(その2)

前回に引き続き、ドイツSpanner社製の木質ガス化コジェネレーションに供給する、燃料チップの水分管理のお話です。

と、その前にドイツといえば先日、エネルギー関連で注目すべきニュースがありましたね。

■ドイツ最大のエネルギー企業はなぜ「解体」されるのか
~エネ業界最大手が原子力・火力から事実上の「撤退」~
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20141208/274831/?P=1

ドイツ最大手のエネルギー企業「エーオン」が、原子力や石炭火力発電から撤退して、自然エネルギーに注力するそうです。ドイツはエネルギーの民主化が進んでいるのですね。とはいえ、自分の目で確かめてみないことには何とも言えない、行ってみたいですねぇドイツやオーストリア。。。


さて、木質バイオマス利用では、大なり小なりその水分管理が課題となるわけですが、今回見学したガス化コジェネともなると水分管理はよりシビアで、仕様によると、適合するチップの含水率(乾量基準)は最大13%、水分(湿量基準)で12%ということになっています。

先にお話したとおり、天然乾燥を十分行った木材の含水率、いわゆる平衡含水率は日本の場合、屋外で15%程度と言われています。つまり、カラッカラに乾いた薪で15%ということですから、これ以上乾燥させるためには、何らかの人工的な乾燥を行う必要があります。あるいは、人工乾燥された製材品やラミナの端材をチップ化する方法も考えられますが、入手は難しいでしょう。

ところでガス化発電の場合、なぜこのような乾燥が必要かというと、高含水のバイオマスをそのまま用いればガス化反応温度が低下し、ガス化反応性の低下およびタール生成量の増加を招くためである、とされています。自分も、ガス化と水分の関係については知識が乏しいのですが、いずれにせよ、人工的な乾燥にエネルギーを使いすぎては、チップ供給からコジェネまでのトータルで見た場合、実質的に得られるエネルギーが目減りしてしまいます。チップの人工乾燥には、自然エネルギーや余剰熱を上手に活用したシステムが求められるでしょう。

現在のところ、このような低含水率の乾燥チップを供給する事業体を国内で求めるのは難しいところです。そのため見学した施設では、自前でチップを乾燥するためハウス等の施設を整備し、この問題に対応していました。
購入している燃料チップは、10トントラックで搬入されてくるそうです。ここからは見えませんが、ハウスの奥にコジェネ装置が隣接しています。ハウスの左右にチップが分けられていますが、これは通路という意味でななく、、、
ハウスの左右にはトンネルがあって、このトンネルから吹き出す温風がチップの間を通ってチップを乾燥させる仕組みです。送風ファンの前に放熱器(ラジエーター)があり、ここにコジェネからの余剰熱が通るようになっています。もちろんハウスの中ですから、ハウス内で暖められた空気の熱も利用できることになります。

ちなみにこの施設では、熱は暖房・給湯に使っても余ってしまい、他の施設に熱を供給することも無いので、このような形で熱を利用しても差し支え無いとのこと。ただし、冬場になると乾燥する熱が不足気味になるようです。
納入されたチップは、一般的な製紙用の切削タイプで、樹皮を含まない白チップでした。搬入したてのものなので、触った感じでもかなり湿っています。
ハウスで乾燥したチップはコジェネ装置の上にあるサイロに蓄えられます。ハウスからサイロへはダクトで風送しています。
サイロの底にあるチップをかき集めるアーム。これが回転することで、チップを搬送スクリューに落とし込むようになっています。
サイロにもコジェネからの温風を吹き出す設計になっていました。やはり、チップの水分管理には相当気を使っているようです。

ところでドイツ本国でも、コジェネを運用する側がこうしたチップの水分管理を行っているのでしょうか?施工した技術者に尋ねたところ、ドイツではこれまでのチップボイラー普及の歴史があり、乾燥したチップは熱量単価で評価されるので供給側のインセンティブとなり、運用する側でここまで対応する必要は無いとのことでした。ちなみに乾燥には、ソーラー熱を利用したサイロが利用されているとのこと。日本では日比谷アメニスさんが「ソーラードライシステム」として取組みをされていますね。
確かにこれならエネルギーを無駄にすることはありませんが、乾燥にかかる期間や、サイロへの出し入れの経費、そしてこれらが加味されたチップ価格でのコジェネ収支など、さらに掘り下げて検証してみる必要があると感じました。

逆にその技術者からは、「ドイツ人に出来て、日本人に出来ないことなど、無いでしょ!」などと、妙なハッパをかけられましたが、日本は高含水率チップに対応した温水ボイラーが普及しはじめたばかりで、人工的に乾燥したチップが燃料として普及するには、いましばらく時間がかかると思われます。

とはいえこうしたコジェネ施設は、地域自立型の電源としてとても魅力的で、太陽光や風力のように天候に左右されないという強みがあります。また、太陽光や風力では得られない「熱」が十分得られることも強みです。こうした自然エネルギー同士が補いあう形で連携すれば、地域によっては自然エネルギーだけで自立することも夢ではない、そんな想いをさせられた見学会でした。

2014年12月7日日曜日

木質ガス化コジェネレーションを見学しました(その1)

すっかり更新をサボってました。これでもイロイロと忙しくて!

これからも、施設見学や基礎知識を交えながらボチボチと続けて参りますが、今回は、小規模・分散型「木質ガス化コジェネレーション」の見学レポです。
ご存知のとおりコジェネレーションとは、熱源から電力と熱を生産し供給するシステムの総称のことですから、何も木質バイオマスに限った話ではありませんし、大規模なものでは、中国木材鹿島工場に隣接する神之池バイオエネルギー株式会社も、中国木材からのバークや端材で発生した電気と蒸気を、今度は中国木材(及び、近くの飼料工場)に供給しており、これも一種のコジェネレーションであり評価できる取組みでしょう。

木質バイオマス関係の識者の間では以前から、発電のみを評価し熱利用に繋がらない現行FIT法への批判があり、小規模・分散型のコジェネレーションを推進すべき、との意見が聞かれますが、じゃあ、その具体例・成功事例はというと、答えに乏しいのが正直なところかと思います。

ところで、「ガス化発電」というと国内では、木質バイオマスでまともに稼働している施設が、ほぼ見当たらないのが現状ではないでしょうか?しばしば、タール分やカーボン(煤)でガス化装置やガスエンジンが閉塞して不具合が発生、というケースを耳にします。ガス化発電に関して国内では、一種のトラウマのような雰囲気が漂っている感じです。(業者の方、スイマセン!)

ところが、今回見学したドイツ「Spanner(スパナー)社」のガス化コジェネレーションは、ドイツ国内で200台の納入実績、海外も含めると300台近い納入実績があり、さらに業績を伸ばしているとのこと。いずれにせよ、日本国内の現状と違いがありすぎる、その理由は何なのかを知りたくて、日本の納入第1号となる福島県郡山市某所の施設を見学して参りました。


まずは、コジェネレーション施設のスペックからですが、詳しくはこちらのHPをご覧いただくのが早いです。
■エコライフラボ 木質コジェネレーション Woodgas CHP

ざっとスペックを列挙(コピペ)しますと、
名称: エコライフラボWoodgasCHP45
発電能力: 45kW electric
ボイラー能力: 105kW thermal
燃料消費: 45kg/h
年間動作時間: 6000時間
年間燃料消費: 240トン
年間発電量: 15万kWh = 540GJ
年間発熱量: 30万kWh = 1.08TJ
燃料: 自然のままの木質チップ、乾燥済み
形状: 基準G30-G40
含水: 最大13%
細粉割合: 4mm以下最大30%

上記を簡単に訳せば、1kgのチップで1kWhの電力と約2kWhの熱が得られるシステムということになります。この熱効率をざっと計算しますと、含水率(乾量基準)13%=水分(湿量基準)12%チップの低位発熱量は約4kWhですから、エネルギー効率は(1kWh+2kWh)÷4kWh=75%ということになり、発電のみの26%と較べ段違い約3倍の高い効率になる理屈です。要するに、木質バイオマス資源を有効活用していることになりますね。
ただし発電だけを見ると、25%と同程度なのが不思議なところです。

発電能力45kWの規模ですが、一般家庭の年間消費電力を1戸当り4.2MWh/年(4,200kWh/年)程度とすると、45kW☓6000時間÷4200kWh/戸≒64戸分に相当します。
また、ボイラー能力105kWの規模ですが、一般的なFF式石油ストーブの出力は5kW程度ですから21台分に相当しますが、ただしこれは、21台のFFストーブが6000時間(250日)Maxで運転する意味ですから、相当な熱出力があることになります。

実際の運用では、一定時間を運転するとメンテナンスが必要になるため、装置を複数台、場合によっては10台以上並列に接続して、1台がメンテナンス中でも全体として支障なく運用できるようシステムを組むのがベターなのだそうです。そのようなシステムで、ホテルや公共施設の熱・電をまかなうのが、得意とする用途だと思われます。

YouTubuにも紹介ビデオがありました。かなりオモシロイです。
20 Spanner Re² wood cogeneration plants in Latvia

上の写真でお分かりのとおり、装置は配管むき出しで、外観からもおおよそ仕組みが理解できます。Spanner社のHPから図を勝手に拝借してますが、
1)チップは中央の筒に貯められる
2)右側のreformerでチップをガス化する
3)左側のgas-filterでガスを浄化する
4)ガス燃料はオットーサイクル(4サイクル)のエンジンを駆動し発電機を回す
といった流れになります。

ガスエンジンはV型8気筒(排気量は未確認です、スイマセン)の立派なもの、V8といえばF1エンジンのコスワース・DFV、あるいはマッドマックスのV8インターセプター並かよ!ってくらいカッコイイ代物ですが、以前見学した岩手県葛巻町のガス化発電ではV型12気筒のガスエンジンが接続されており、これだとフェラーリ並でさらにカッコ良くてしびれる(笑)、エンジンは求められる出力に応じて多気筒化するのだと思います。
手前の黒い部分がV8のガスエンジン、奥のグレーの箱が発電機です。男の子なので、こういうメカを見ていると楽しくて仕方がありません(笑)

自動車エンジンとの大きな違いを発見しました。それは、熱回収の仕組みです。
赤の点線で囲んだ2つの部分がプレート式の熱交換器で、上がエキゾーストマニホールド(排気ガスの通るパイプ)からの排ガスの熱を、下が冷却水からの熱を、それぞれ回収する仕組みになっているようです。自動車用エンジンの場合その目的は車の動力で、熱は排ガスやラジエーターから捨てるだけ(一部、暖房に使用)ですが、そんなマヌケなことはコジェネ屋はやらない、ということです。

そういえば、ガス化装置の側にも二重管式の熱交換器がついていました。ガス化の際に発生する熱も無駄なく利用するためですが、得られる熱量は、ガス化装置側よりもガスエンジン側から得られるほうが多いそうです。
ちなみに、装置の大きさは下の写真でお分かりになるかと思います。
以上、装置を見て参りましたが、課題は燃料となるチップの含水率だと理解できました。使用に適したチップの含水率(乾量基準)は最大13%となっていますが、天然乾燥を十分行った木材の含水率、いわゆる平衡含水率は屋外で15%程度と言われています。従ってこのシステムは、人工的に乾燥されたチップが必要なのです。

逆に言えば、乾燥チップさえ安定的に供給できれば、化石燃料にも原子力にも頼ること無く、地域で熱・電供給が可能となる理想的なシステムということになります。次回はこのシステムのチップ乾燥について整理してみたいと思います。

2014年9月15日月曜日

大分県日田市「天瀬発電所」を見学してきました

このところ林業や木材関係のニュースで、木質バイオマス発電のことが掲載されない日はありませんね。言うまでもなくFIT法の影響ですが、法律の威力ってすごいものだと思います。それだけに、責任も重大だと言えるわけですが。

バイオマス発電の計画も、発電効率を追って大型化する傾向にあるようです。例えば、
「住友商事、愛知県半田市に日本最大級のバイオマス発電所を建設開始」
http://plant.ten-navi.com/news/4070/

「愛知県半田市におけるバイオマス発電所建設開始について」
http://www.sumitomocorp.co.jp/news/detail/id=27923

愛知県のそれは、7.5万kWのバイオマス発電とのことですが、これって先日取り上げた「ウッティかわいバイオマス発電」の15倍ですよ!確かに5,000kW程度では本格的な発電所とは呼べないのかもしれませんが、それにしても、こんな巨大な規模でもバイオマスで動かせるんですね。

その秘密は何といっても、輸入チップやパームヤシ殻を燃料にしているからでしょう。現地で集積している未利用バイオマスを大量に仕入れて、コンテナ船で日本に運んで発電するわけですね。

バイオマスが集積している地域は途上国がほとんどでしょうから、エネルギーかけて日本に運ぶよりも、できることなら現地で発電して、その国の経済力や教育水準を高めることに使えば良いのになぁ、などと思ってしまうのは、自分が経済に疎いからでしょうか?商社の皆さんとか、たいへんなご努力をされていことは重々知りつつも、FIT法の影響力の大きさにモヤモヤしたものを感じてしまいます。


さて、前置きが長くなりましたが、先日、大分県日田市のバイオマス発電施設である株式会社グリーン発電大分「天瀬発電所」を見学する機会に恵まれたので、「ウッティかわいバイオマス発電」と比較しながらご紹介したいと思います。というのも、この2つの発電所はバイオマスの調達方法は異なるものの、規模的にまったく同一だからです。
まずは、発電施設のスペックなど。

■所在  大分県日田市天瀬町五馬市245-4
■発電出力  5,700kW(うち、施設内利用700kW)・・・一般家庭の10,000戸分相当(1戸当り4.2MWh/年として)
■ボイラー形式  流動層ボイラー
■実際蒸発量  25,000kg/h(ボイラー出力15,700kW相当)
■蒸気タービン形式  抽気復水タービン
■木質バイオマス使用量  60,000トン/年(全量、間伐材等由来の木質バイオマス)
■バイオマス買取価格  7,000円/トン(生材)

発電出力、ボイラー形式はほぼ同一。違いといえば、
1)「かわい」は利用するバイオマスの半分が自社工場の端材、残り半分が買取りだったのに対し、「天瀬」は全量が買取りとなっている。
2)バイオマスの買取り価格が、「かわい」が5,000円/トン程度であるのに対し、「天瀬」は7,000円/トンと高い。

こうしたバイオマス調達の違いを見ると、「天瀬」のほうが「かわい」よりも事業化のハードルが高かったような気がします。ただし、「天瀬」の立地する日田市の取組みとして、市内全域の森林で森林経営計画を策定済みであることが挙げられます。
これにより、日田市内から伐採された木材であれば、原則的に伐採届の手続きさえ行えば、間伐材等由来の木質バイオマス(間伐材・保安林材・森林経営計画材・国有林材)の認定を受けられることになります。
発電所としても、材の集荷範囲は半径50kmと想定しており、この範囲で無理なく操業できる規模として5,000kWクラスが選定されたそうです。これら認証材の証明書の管理・整理に相当な事務労力を費やしている、とのこと。

また、バイオマスの買取価格を7,000円/トン(生材)とし、水分の多寡は問わない決まりにしたそうです。例えば、雨の日に材を持ち込めば発電所としては不利になりますが、7,000円/トンの単価の中でこれを吸収しているとのこと。この単価は、材を集めるためのインセンティブとなるよう、かつ、他の製材業などを圧迫することのないよう、慎重に検討したとのことです。
なお、材積(㎥)と重量(トン)の換算係数は「1」、すなわち1㎥=1トンとしているそうで、これは事前に実測した結果によるとのこと。かなり水分の多い材を想定していることが分かります。

材の水分の多寡を問わない代わりに、「天瀬」には「かわい」に無い装備がありあます。それが、チップの水分を調整するロータリーキルンで、この装置のおかげで、多少水分の高い材であっても安定してボイラーで燃焼させることが可能となっています。
チップ化された材は、ロータリーキルン(右側の水平になった筒)を通ってボイラーに送られていきます。ロータリーキルンは木質チップの熱源(左側の縦の筒型のボイラー)で暖められていますが、この熱源は発電とは無関係でFITに算定されないため、建築廃材チップを使用しているそうです。

ちなみに、FIT対応バイオマス発電所の第1号といわれる福島の「グリーン発電会津」も、発電用ボイラーに投入する前段階でチップの水分調整をしていますが、「会津」はロータリーキルンではなくチップの搬送コンベアーを下部から熱する構造でした。「天瀬」は後発だけあって、より積極的に効率よく水分を調整する仕組みになっていると思いました。

バイオマス材の受入れはトラックスケールによるもので、「かわい」でもどこでも変わりありません。
敷地いっぱいに材が積まれていましたが、隣接地にまだ空きスペースがあるそうで、できれば2~3ヶ月分をストックし、天日乾燥させながら安定した発電を心がけたい、とのこと。
なお、燃焼灰は山林からの木材だけを燃焼させているため非常にクリーンで、廃棄物ではなく有価物として売却している模様。具体的に何の用途に売却しているかは企業秘密とのことでしたが、廃棄物として経費がかかるのと比べ、有価物として売却できることが経営上有利になっているとのお話でした。

まとめになりますが、やはり、他のバイオマス発電所と同様、熱利用がなされていないのが残念ですが、大分県日田市という林業が盛んな地域で、低質材の売り先として意義のある取組みであると評価できました。

この発電所が無かったら、この地域の低質材が7,000円/トンで売れることは無かったでしょう。九州はバイオマス発電計画が乱立気味の様相ですが、「天瀬発電所」は日田市の地域に根ざした発電所として、どうか末永く運営していただきたいと願うものです。