ところで皆さんは、2月17日(火)放送のNHKクローズアップ現代「急増!バイオマス発電~資源争奪戦の行方~」をご覧になりましたか?木質バイオマス発電の課題を、業界の第一人者である熊崎実先生が、まさしく正論をわかりやすくお話されていました。
自分は、番組を後から見るため自分用に、動画ファイル(mp4)にして下記Yahooのフォルダに置きました。400MB近くありますが、あくまで、自分で後から見るため、です。
https://box.yahoo.co.jp/guest/viewer?sid=box-l-3duexsnptjwft2altem3ecblli-1001&uniqid=7412c10b-51dc-43a0-8fff-30b86447d513
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さて、番組でも課題視されていましたが、バイオマス材の価格が高騰の兆しを見せています。番組ではこのあおりを食らって、岐阜県の製紙工場が原料の入手難に陥ってるとのくだりでした。他にも例えば、青森県の八戸バイオマス発電(出力規模12,100kW)では、燃料種に間伐材、製材端材、鉄道林間伐材、PKS等を使用する計画と発表され、間伐材については6,500円/トンで買い取ることを表明しています。また、九州大分では、7,000円/トンが相場となりつつある、との情報です。いずれも製紙用チップ材の相場(地域によって差はあるものの4,000円/トン以下と思われる)よりもかなり高い相場が形成されつつある模様です。製紙会社が買い負けするのも当然です。
FITの制度上、売電単価は20年間保証されるものの、原料となる木材の価格は状況と競争により変動するハズです。林業者にとってみれば、木材の相場が上がることは喜ばしいことかもしれませんが、番組中でドイツの例であったように、相場が上がりすぎて発電所が立ちいかなくなり倒産してしまっては、結局、全てが水の泡と化してしまう。その時になって、バイオマス発電に買い負けした製紙工場まで撤退していたならば、逆にマイナス要因ともなりかねません。要するに、行き過ぎたバブルはマズイだろう、ということです。今回は、こうした状況で発電所は本当にダイジョウブなのか?といったことを含めて検証してみよう、という趣向です。
※注:前回のブログアップ後にとある方から、「ここでのシミュレート結果はある仮定に過ぎないということを強調しておいたほうが良い」とのアドバイスを受けました。というのも、現段階では維持管理費やバイオマス材の価格は変動幅が大きく、特に維持管理費は業者によってまったく違う経費見積となる可能性があり、断定的な言い方はできないからです。
さて、さっそく計算してみますが、想定する発電所の規模は前回と同じ5MWクラスとします。ただし今回は、燃料は全て購入バイオマスとなります。
■発電出力 5,800kW(うち、施設内利用800kW)
■ボイラー形式 流動層ボイラー
■実際蒸発量 28,000kg/h(ボイラー出力17,500kW相当)
■蒸気タービン形式 抽気復水タービン
■建設費 3,000,000千円(30億円) ・・・ボイラーから発電施設まで一式
■木質バイオマス使用量 80,000トン/年
前提条件として、次のような単価等を設定します。
■売電単価 32円/Kwh(未利用木材)
■稼働日数 360日/年
■発電量 36,000,000Kwh ・・・5,000kW×24h×300日(実質年間稼働率83%)
■原木単価 6,000円/トン
■従業員数 10名×360日
以上の条件で収支を計算します。
■収益(売電のみ)
32円/kWh×36,000,000kWh=1,152,000千円 ・・・約11.5億円
■支出
燃料費 480,000千円 ・・・6,000円/トン×80,000トン
機械経費 98,000千円 ・・・当初の見積額
資材経費 363,000千円 ・・・当初の見積額
維持管理費 119,000千円 ・・・当初の見積額
人件費 54,000千円 ・・・15千円×10人×360日
減価償却費 100,000千円 ・・・建設費3,000,000千円/15年償却、補助金で1/2圧縮
(合計)1,214,000千円
■収支
-62,000千円 ・・・1,152,000千円-1,214,000千円
ややや、6千万円の大赤字です!まさか、実際にそんなはずはありませんね。
<推測その1>
では、どうして経営が成り立つか? それは前回も述べたとおり、機械経費、資材経費、維持管理費といった固定経費が、実際には見積り金額よりもディスカウントされているからだ、と見て間違いないでしょう。PCシステムソフトの「0円入札」のように、メンテナンスを行う事業者の思惑によって実際の契約額は大幅に異なると考えられるからです。
そこで、これら年間経費を仮に全て7掛けとしてみると、支出の合計金額は1,040,000千円となり、収支は、
112,000千円 ・・・1,152,000千円-1,040,000千円
これならOKです。実際の契約額や、その内訳・根拠はなかなか明らかになることはありませんが、発電所がそこそこ成り立つ金額になっているハズです。とはいえこのあたり、ブラックボックスの領域なので「言い値」の域を出ませんが。
<推測その2>
最初に述べたとおり、FITには原料価格高騰のリスクが付きまといます。では仮に、上記で想定した6,000円/トンから7,000円/トンに価格が上昇したらどうなるでしょうか?
計算は上記「7掛け」の積算に当てはめるだけで簡単なので省きますが、 収支は、
32,000千円 ・・・1,152,000千円-1,120,000千円
ギリギリセーフ!といったところです。トラブルさえ無ければ、利益分が3千万円毎年発生する、という皮算用ですが、さて、どうでしょう?
以上まとめますが、設備の維持管理にかかる固定費はブラックボックスの中であり、現状ではブレ幅の大きな過渡期にあること、また、原料となるバイオマスの価格は高騰する可能性があるため、発電所を計画する上ではこうしたことを十分に予測した上での収支計画が必要となる、ということです。電力供給のみのバイオマス発電事業は、FITの買取り価格が保証されているとはいえ、実は、極めてリスクの高い事業なんだなぁ、と感じました。自分だったら社長になるのは、、、ちょっとイヤですね(笑)
国は最近、バイオマス資源が逼迫していることを受け、発電所どうしが競合しないよう発電所の小規模化を打ち出してきましたが、これだけではダメで、なぜならこのことで売電単価はますます高いものになり、国民は単価の高い電気を無理やり買わされるハメになるからです。こうした動き・制度は、自然エネルギーを推進しているように見えて、逆に原発を推進しようとしている方たちに格好の突っ込みどころを与えているような気がしてなりません。というか、かえってマズイんじゃないかな。
こうしたリスクの無い、FIT制度に左右されないバイオマスエネルギーの利用形態は、はたして実現可能なのでしょうか?そのためにはどうしても、小規模分散型の電・熱併用の仕組みを確率していく必要があると考えます。その上での、バイオマスエネルギーによるグリッドパリティの可能性について、今後考察していきたいと思います。