木質バイオマス利用に役立つ忘備録です。これは!と思った情報を随時アップして参ります。

2014年3月30日日曜日

燃料チップの種類 切削チップその2

今回は移動式チッパーによる切削チップを整理していきます。同じ移動式でも、破砕チップについては次回に整理します。

移動式の切削チッパーには、自走式のものと、トラクターなどのPTO(Power take-off)を動力とするものがあります。動力源は異なりますが、製造できるチップに違いはありません。
もともとこれらチッパーの用途は、林地に堆積した雑多な木材を片付けることです。従って、前回お話した据置型のチッパーがフルイ(スクリーン)を備えているのに対し、移動式チッパーでスクリーンを備えたものはほとんどありません。そのため上の写真のように、長いままの樹皮や木片といった、いわゆる長尺チップの混入が避けられません。

チップボイラーの回でお話していきますが、これら長尺チップはボイラーのチップ搬送装置にからむ、あるいは詰まるなどトラブルの原因になります。これは、搬送装置の径の小さい小規模ボイラーほど顕著です。
そのため、林道脇に集積してある未利用材などを移動式チッパーで利用しようとしても、従来型の移動式チッパーでは難しいところがありました。

しかし、欧州のバイオマス先進地では、バイオマス利用向けの移動式チッパーが普及しているとのこと。そのチッパーを岩手県紫波町の農林公社さんが導入したので、さっそく見に行ってきました。


導入された機種はオーストリア製「STARCHL MK-50S」、これまでの移動式切削チッパーとの違いは、
1)多重構造のカッターを備え、長尺チップが発生しにくい構造
2)太すぎてチッパーに投入できない材を割るための油圧装置を備える
3)グラップルを備え一人で全ての作業ができる
といったところでしょうか。

据え置き式のチッパー施設一式と比べると、お値段もだいぶお安くなりますし場所もとりません。いざとなれば伐採現場での作業も可能です。とはいえ、ほとんどは施設内での利用とのことでしたので、トラクターのPTOではトラクターが使えずもったいないので、別な動力装置に代えたほうが良いと思いました。

また、製紙用のチップに比べると粒度がかなり小さいため、重量や密度については製紙用チップと異なる規格・基準が必要になるでしょう。

製造されたチップは、町内のラ・フランス温泉館のチップボイラーで利用されるほか、紫波中央駅前で展開されているオガールエリアでの地域熱供給に利用される模様です。
地域の未利用資源を活用する手段として、活躍が楽しみですね!


次回は破砕チップについて整理していきます。

2014年3月29日土曜日

燃料チップの種類 切削チップその1

燃料チップの規格と相場を見ていく前に、まず、チップの種類について整理していきます。

チップは製造方法により、刃物で加工した切削チップと、ハンマーやシュレッダーで砕いた破砕チップに大きく分けられます。
木質チップの需要のほとんどは、製紙用またはボード用のマテリアル利用です。

製紙用チップはサイズや品質が重視されるため、原材料には丸太原木や製材の背板(丸太を製材したときの余り)等を用いた切削チップが主に使用されます。

一方、ボード用には切削チップのほか、建築解体材等のいわゆる廃木材を原材料にした破砕チップが使用されます。ボードの代表的な製品はパーティクルボードで、カラーボックスに使われているのがこれです。

今回は切削チップについて整理していきます。

製紙用チップの多くは専門のチップ工場で生産されています。一般的に規模が大きく、年間に数万㎥の丸太を消費する工場も少なくありません。

原料の丸太は、一般的にまず木の皮(バーク)を剥いたのち、据え付け式のディスクチッパーでチップ化され、さらにフルイ(スクリーン)を通して一定形状・大きさに揃えてから出荷されます。製紙工場へは専用の大型コンテナ車で運搬します。
ここで生産されるチップをバイオマス利用する際、その特徴は、

1)品質・形状が一定しており、チップボイラーの搬送装置と相性が良くトラブルが少ない
2)年間の出荷量が大きいため、チップボイラー1箇所程度の需要は「おすそ分け」に過ぎない
3)工場はチップ生産に専念しており、バイオマス需要者への個別配送は行っていないのが普通
4)チップの水分は原木の状況に左右され、水分管理がなされていないことが一般的

これは、製紙用チップは水分を調整する必要が無いためで、なぜならチップを納入する際のルールとして、製紙会社側が水分以外の「実」の量を評価(測定)し、これに応じて納入伝票を切るのが一般的だからです。

なお、バークは製紙原料には適さないため、堆肥の原料かバークボイラーの燃料、あるいは家畜の敷料として販売(あるいは引き取り)されていることが多いです。バークボイラーも歴とした木質バイオマスボイラーですから、いずれ「便利帳」で取り上げたいと思います。


チップ専門工場以外で切削チップを生産しているのは様々な規模の製材工場です。これには、一般的な製材工場のほか、集成材などの大規模工場も含まれ、チップの生産量は工場の規模により異なります。

丸太を四角く製材するわけですから、製材工場はどこも大量の端材が発生します。その工場がどこまで細いものを挽くかにもよりますが、原木丸太の2割から多いところで4割以上もの端材が発生し、そのほとんどはチップ化され、やはり主として製紙工場に買い取られます。そのため、製紙工場が提示する仕様を満たすため、小規模工場でもスクリーン装置を備えている所が一般的です。

なお、製材品や集成材ラミナの乾燥熱源に、工場内のバークや端材を燃料とする木くず焚きボイラーを使用するケースが増えてきました。熱源に重油や灯油を使うよりも合理的なシステムですが、これら木くず焚きボイラーについても、いずれ「便利帳」で取り上げてみたいと思います。

続いて、移動式のチッパーを用いる方法を整理しようと思いましたが、だいぶ長くなりましたので、次回とさせていただきます。

2014年3月23日日曜日

木材の比重とバイオマス利用

先に、木質燃料の低位発熱量は、

■低発熱量(Q)の計算式(メガジュール値)
Q = -0.2326M + 17.7
Q : 単位当りの低位発熱量(MJ/kg)
M : 湿量基準含水率(%)・・・水分

で示されることをお話しました。この式を組み替えると、

E = ( -0.2326M + 17.7 ) ☓ W
E : エネルギー(熱)量(MJ)
W : 木質燃料の重量(kg)

つまり、樹種に関係なく木質燃料の発熱量は重量に比例する(ただし、水分が同じであれば)、ということですね。あたりまえ、のような話ですが。

ところが、木材は樹種によって単位容積(材積)当りの重量、すなわち比重に大きな違いがあります。代表的な樹種の比重は次のようになりますが、例えば同じ針葉樹でも、スギとアカマツでは3割以上もアカマツのほうが重いわけです。
※出典:世界の有用木材7800種
なお正確に言いますと、ここでの比重とは、木材の空隙を含む全体積V(㎥)が質量M(kg)であった場合のM/Vの値のことです。木材は細胞壁などの実質部分とその他の空隙部分から構成されているわけですが、細胞壁だけの比重は1.50程度で樹種によってほとんど差が無いそうで、この値を真比重といいます。
つまり、スギのような軽い木は空隙だらけのスカスカで、逆にその倍もあるコナラの木はみっちりしている、というわけです。

樹種による比重の違いは、生育環境や地域によって差がありますのでご注意ください。例えば、アカマツは広島県のものと岩手県のものでは広島のほうが重いことが知られていますし、岩手県内でも地域差があります。

ところで木材を売買するとき、製材品向けの木材は容積(材積)当りの単価で、製紙・パルプ向けは重量当りの単価で(場合によっては、これを容積に換算して)取り引きされることが一般的です。これは、製紙・パルプ向けの木材は曲がり材や細い材といった低質材が多いため、材積を測るのが厄介だからなのだと思います。

上記のスギとアカマツの話に戻りますと、この2つの樹種を燃料として利用した場合、もし材積当りの単価が同じ(例えば、10,000円/㎥)だったとすると、比重が3割重いアカマツを買ったほうが使う側は3割得をすることになります。逆に売る側としては、アカマツのほうを3割高く売ってもスジが通る理屈です。

しかしながら、現在のところ木質バイオマスの市場は未成熟であり、燃料チップの取り引きも、容積単位のところ、あるいは重さで取り引きするところと様々なのが現状です。また、供給する側の水分管理も十分とは言いがたく、燃料としてのコストパフォーマンス、すなわち熱量単価を加味した価格形成がされているわけではありません。

とはいえ現実として、ある程度の相場は形成されつつありますので、次回から燃料チップの種類と相場を見ながら、他の燃料と熱量単価の比較をしてみたいと思います。

2014年3月22日土曜日

他の燃料の発熱量を知る

木材の発熱量は、石油系の燃料と比べてどのくらいの差があるのでしょうか?

それにはまず、石油系燃料の熱量を知る必要があります。
最も公式な数字は、資源エネルギー庁の「総合エネルギー統計」にある「標準発熱量」(2005年度標準発熱量)です。
http://www.enecho.meti.go.jp/info/statistics/jukyu/resource/pdf/070601.pdf

注意しなければならないのは、ここで掲載されいてる数字は各種燃料の高位発熱量だ、ということです。これはおそらく、この数字の目的が国内で消費されるエネルギーの把握に重きが置かれているからだと思われます。

先に、実質上の燃料の性能は低位発熱量で評価する、とお伝えしました。では、これらの低位発熱量の公式数字はどこにあるのでしょうか?

それは、独立行政法人産業経済研究所の「総合エネルギー統計の解説」が最も公式なものと思われます。
http://www.rieti.go.jp/users/kainou-kazunari/download/

この「総合エネルギー統計の解説 / 2010年度改訂版」のP11下段に、

2-2-3. エネルギー源別の真発熱量
総合エネルギー統計の真発熱量表に用いるエネルギー源別真発熱量については、
~中略~ (別掲)に示す換算係数を乗じて算定する。

とあり、この「真発熱量」とはすなわち低位発熱量のことを指し、「換算係数」とはエネルギー源毎の水素含有量に応じた係数、すなわち水の蒸発潜熱を差し引いた割合のことです。

「換算係数」は同「総合エネルギー統計の解説」のP247に別掲表として、
表2-2-3-1. 真発熱量の推計方法(参考値)
http://www.rieti.go.jp/users/kainou-kazunari/download/pdf/2010EBXRCP7000.pdf

これらに従って、総合エネルギー統計の「標準発熱量」(高位発熱量)に、「総合エネルギー統計の解説」の「換算係数」を掛けた主な燃料の発熱量(低位発熱量)は以下のとおりです。

以上、長々と書きましたが、宮崎県さんが便利な一覧表を公表してくださっているので、これがいちばん分かりやすいかもしれません。(最初っからこっちを紹介しろ!という意見もある)
https://www.pref.miyazaki.lg.jp/parts/000141336.pdf
※ただし、宮崎県さんの発熱量は2000年度の標準発熱量を使用されているらしく若干のズレがあります。現在は2005年度改定が最新の数字です。

さて、様々な燃料の低位発熱量がわかりましたが、キログラム当りであったり、リットル当りであったり単位がまちまちです。いっぽう、木材は材積で評価する場合や、重量で評価する場合もあります。

次回は、木材の発熱量と比較する前段として、木材の比重について整理してみたいと思います。

2014年3月16日日曜日

木質燃料の発熱量 その2

木材の水分と発熱量の関係を具体的に見ていきます。

低位発熱量は、高位発熱量から 1)燃料中の水素から生成する水、及び 2)燃料中に含まれている水分の蒸発熱を、計算により差し引いて割り出されます。この計算には、燃料中の水素の組成を知る必要がありますが説明がややこしいので、興味のある方は全国木材チップ工業会のこちらをご覧ください。

実用上、覚えておかなくてはならないのは、単位重量当りの木材において水分(湿量基準含水率)と低位発熱量は反比例関係にあること、及び次の関係式です。

■低発熱量(Q)の計算式(カロリー値)
Q = -55.75M + 4238
Q : 低位発熱量(kcal/kg)
M : 湿量基準含水率(%)

■低発熱量(Q)の計算式(メガジュール値)
Q = -0.2326M + 17.7
Q : 低位発熱量(MJ/kg)
M : 湿量基準含水率(%)

上記の式をグラフにしたのがこちら。

グラフを見てわかるとおり、低位発熱量の計算式は水分M(湿量基準含水率)を入力するだけの簡単な反比例式ですから、例によってAndroidスマホをお使いの方は「計算式電卓」のようなプログラム電卓に式を登録しておくと便利に使えます。

なお、このグラフを10%刻みの一覧表にすると次の表になります。高発熱量は昨日の「木材工業便覧」と同一です。
伐採したての木材は水分が50%を上回るケースもあり、このときの発熱量は水分0(絶乾)のときの半分以下になってしまいます。高含水率チップを利用できるチップボイラーも普及してきていますが、だからといって水分の多すぎるチップは燃料として不適です。
ストーブやボイラーとのマッチングを考慮しつつ、薪にせよチップにせよ、木質バイオマスは一定の水分コントロールを行うことが基本といえるでしょう。

次回は、木材と他の燃料との発熱量の比較をしてみたいと思います。

2014年3月15日土曜日

木質燃料の発熱量 その1

一般的に、薪ストーブには広葉樹の薪が好まれますが、その理由は火力が強いからなのでしょうか?だとすると、針葉樹はバイオマス利用に向いていないのでしょうか?

実は、同じ重量ならば広葉樹よりも針葉樹のほうが発熱量が多いのです。樹種による違いや個々のバラつきはありますが、針葉樹は4,660kcal/kg(19.5MJ/kg)、広葉樹は4,400kcal/kg(18.4MJ/kg)辺りの発熱量を示すものが多いとされています。針葉樹は広葉樹よりも6%程度高い発熱量があることになりますね。

その理由は、針葉樹と広葉樹の組成の違いにあります。以前お話したとおり、リグニンの割合が広葉樹が20%程度であるのに対し、針葉樹は30%程度あります。リグニンの発熱量は、セルロースやヘミセルロースに比べ単位重量当り5割以上高い値を示すそうで、これが針葉樹の発熱量が高い主な理由です。

ただし、針葉樹と広葉樹の絶乾比重(水分0%のときの比重)を比べた場合、たとえばスギが0.38程度であるのに対し、ナラは0.68と1.8倍もあるので、同じ体積ならば広葉樹のほうが発熱量が多いことになります。
つまり、針葉樹は広葉樹に比べると空隙だらけのスカスカな木なわけで、薪ストーブで同じ暖かさを得るのに、広葉樹のほうが薪をくべる頻度が少なくて済む理屈です。
樹種による燃焼特性と比重との関係については、また改めてまとめてみたいと思います。

さて、木材を燃料として使用するときには様々な樹種が混ざることが考えられます。特に、建築廃材や林地残材を燃料チップにする場合、樹種を指定することは困難です。では、木質燃料の発熱量を評価する場合、一般的にはどんな数値を使えば良いのでしょうか?

それには、「木材工業便覧」に示されている「含有水分量と発熱量」を用いることが一般的です。「便覧」によると、絶乾のときの木材の発熱量(高位発熱量)は4,562kcal/kg(19.1MJ/kg)である、とされています。この値は針葉樹と広葉樹の中間ぐらいの発熱量ですね。

この数値が国内では公式な数値とされていますので、特に断りの無い限り、このブログでも木材の高位発熱量は「便覧」に従うことにします。なお、念のため繰り返しになりますが、この表での「水分」とは「湿量基準含水率」のことを指します。

次回は、発熱量と水分の関係を見て参ります。

2014年3月9日日曜日

高位発熱量と低位発熱量

灯油などの燃料を燃やしたときも、薪やペレットをなどの木材を燃やしたときも、燃焼ガスには(主として)二酸化炭素、及び水(水蒸気)が含まれることを前回お話しました。

熱した水蒸気は温度が下がると水滴になりますが、水蒸気が水滴に変化するとき、周りは(あるいは水滴が付着する機器は)暖められることになります。逆に、水滴を水蒸気に戻そうとすれば水滴が付着した機器を暖めなければなりません

つまり、物質(水)が液体から気体に変化するときには吸熱が起こり、逆に、気体から液体に凝縮するときには発熱が起こるわけです。こうした物質の状態(相)が変化するときに必要とされる熱エネルギーを総称して「潜熱と呼びます。
水の場合の「潜熱」は、水→水蒸気のときに必要な熱を「蒸発潜熱」、水蒸気→水のときに得られる熱を「凝縮潜熱」と分けて考えると良いかもしれません。それでもイメージしにくいので、拾ってきた図で示しますね。

ちなみに、物質の状態(相)が変化しない熱を「顕熱と呼びます。やかんでお湯を沸かすことをイメージしてください。水を火にかけると温度が上がってきますが、水は液体のままで相の変化はありません。この状態が顕熱による温度上昇です。このとき、火から与えられた熱は熱エネルギーとして水(お湯)に蓄えられています。
さらに時間が経つと水の沸騰が始まります。1気圧のときの純水の飽和温度(沸点)は言うまでもなく100℃で、これ以上水の温度は上昇しません。水が蓄えきれなくなった熱は蒸気となって、大気中に拡散していきます。

顕熱・・・水が水の状態のままで温度変化するときの熱エネルギー
潜熱・・・水が蒸気になるときの熱エネルギー、正確には、水⇔氷のときの熱エネルギーも潜熱

さて「発熱量」とは、ある一定の状態(たとえば、1気圧、20℃)に置かれた燃料を、十分な乾燥空気で完全燃焼させ、その燃焼ガスを元の温度(この場合20℃)まで冷却したときに計測される熱エネルギー量ですが、発熱量には「高位発熱量」と「低位発熱量」という2つの定義があります。

燃焼ガスに含まれる水蒸気が凝縮するときに得られる凝縮潜熱を含めた発熱量を高位発熱量(総発熱量)といい、水蒸気の凝縮潜熱を含まない発熱量を低位発熱量といいます。
したがって、低位発熱量は高位発熱量から水蒸気の凝縮潜熱を差し引いたもので、次式の関係が成り立ちます。

低位発熱量=高位発熱量-水蒸気の凝縮潜熱×水蒸気量

なぜ、こうした2種類の発熱量を用いるのでしょうか?
ストーブやボイラー等は、燃焼ガスを水蒸気の飽和温度以下まで低下させようとすると、凝縮水によって熱交換器の腐食などが懸念されるため、燃焼ガスを水蒸気の凝縮潜熱まで利用することはされていません。なので、燃焼機器の性能を評価(例えば、熱効率80%、とか)する場合、基準となる燃料の発熱量は低位発熱量を用いるお約束になっているようです。
一方、日本の総合エネルギー統計といった資料には、高位発熱量が用いられることが多いようです。
燃料の発熱量や機器の熱量計算には低位発熱量、統計には高位発熱量を用いる、といったところでしょうか。

なお、精製された工業製品である灯油やプロパンガスは水分を含みませんが、木材は大なり小なり水分を含んでいるのが普通です。木材が燃焼するときは、セルロース等の燃焼成分からだけでなく、木材に含まれていた水分からも蒸気が発生します。
一方、木材の高位発熱量は、燃焼成分によって生成した蒸気と、燃料中に含まれていた水分による蒸気の両者の凝縮潜熱を含みますから、これを差し引いた値である木材の低位発熱量は水分によって差が生じることになります。要するに、湿った薪は勢い良く燃えないということです。

JISで規定された灯油の低位発熱量がどれも一定なのに対し、木材は水分によって燃料の性能が変化し、これがややこしい話でもありオモシロイところでもあります。

次回はようやく、木材の発熱量(エネルギー)について触れてみたいと思います。

今回は言葉の定義ばかりでややこしかったかもしれませんが、要するに、木質バイオマス燃料の発熱量は低位発熱量で評価するルールだ、ということです。

2014年3月8日土曜日

木材の燃焼化学

またまた基礎講座です。今回は木が燃えるときの化学式を見ていきます。

燃料といえば、フツーは灯油とかプロパンガスとかですが、これらは「炭化水素」の仲間で、炭素Cと水素Hの化合物であると、学校で教えられましたよね?
炭化水素で最も構造の簡単なものはメタン(CH4)ですが、その燃焼は、

CH4 + O2  →  CO2 + 2H2O

つまり、メタンとか灯油とかが燃えると二酸化炭素と水(水蒸気)が発生するわけで、例えば、1リットルの灯油を燃やすと、これとほぼ同じ1リットルの水(水蒸気)が発生します。部屋でファンヒーターを使用すると窓が結露するのは、部屋で洗濯物を干していること(だけ)が原因ではありまませんww

さて、木材は針葉樹も広葉樹もその組成は、「セルロース」と呼ばれる繊維が最も多く約50%、「ヘミセルロース」が針葉樹で約20%・広葉樹で約30%、「リグニン」が針葉樹で30%・広葉樹で約20%となっています。
「紙」は木材からセルロースだけ抽出して、これ絡ませながら薄く平(たいら)に成形したものです。
コンクリート構造物に例えると、セルロースは鉄筋、ヘミセルロースは砂利などの骨材、リグニンはセメントに相当します。このうち、最も多いセルロース(C6H10O5)nはデンプンと同じ多糖類とされ、これが燃焼するときは、

(C6H10O5)n + (6O2)n  →  (6CO2 + 5H2O)n

となり、やはり二酸化炭素と水(水蒸気)が発生します。
つまり、もし木材がまったく水分を含まなかった(水分0%だった)としても、燃焼ガスには二酸化炭素と水(水蒸気)が含まれているわけです。

水蒸気が冷えて水滴となることを「凝縮」といい、これが結露の正体です。
また、ある圧力の下で液体(水)が沸騰する、または(水)蒸気が凝縮する温度を「飽和温度」あるいは「沸点」といいます。ご存知のとおり、1気圧のときの水の沸点(飽和温度)は100℃です。

2014年3月2日日曜日

木材と水分(または含水率)

水は樹木の生育に欠かせないものですが、木材に含まれる水は、製材品の木材の特性に、あるいはバイオマス燃料としての性能に大きな影響を与えます。

木材に含まれる水の割合を示すには2つの方法があります。これを混同してはいけません。
木材をどんどん乾かしていって、水分がゼロになったとします。そのときの木質の重量(絶乾重量)を100とした場合の水の割合を「乾量基準含水率」(U)と呼び、製材品や合板等の木材で「含水率」といったらこの「乾量基準含水率」(U)を指します。
乾量基準含水率は100%を上回ること、つまり木質の重量を上回る水を含む木材がありえます。例えば、伐採したてのスギ材は含水率が200%を超えることもあります。

■乾量基準含水率  U=Ww/Ws×100(%)

いっぽう、食品でも土壌でも、一般的に含水率といったら全体重量のうちの水の割合のことを言うはずです。これを「湿量基準含水率」(M)と呼び、上記の含水率(乾量基準含水率)と区分するため「水分」と呼ぶことがあります。
湿量基準含水率は(当然ですが)100%を上回ることはありえません。湿量基準含水率が100%とは、すなわち「水」です。

■湿量基準含水率  M=Ww/(Ws+Ww)×100(%)


後日に説明しますが、木質バイオマス利用では湿量基準含水率で考えたほうが都合が良いのです。というのは、湿量基準含水率と木材の発熱量はキレイな反比例の関係にあるため、熱量の計算が容易だからです。
いっぽう、乾量基準含水率は木材の強度など物理的特性を考える場合に都合が良いのですが、発熱量との関係は2次曲線状になって計算がメンドくさいww

製材所もチップ工場も、通常は乾量基準含水率で話をしてくるので、このあたり注意が必要です。
※乾量基準Uが100%のとき、湿量基準Mは50%
※乾量基準Uが50%のとき、湿量基準Mは33%
といった具合です。


ちなみに換算式は、

■乾量基準U⇒湿量基準M  M = U/(100+U) × 100(%)

■湿量基準M⇒乾量基準U  U = M/(100-M) × 100(%)

となりますので、Androidスマホをお使いの方は「計算式電卓」のようなプログラム電卓に式を登録しておくと便利です。iPhoneのことはよく分かりませんが、似たようなものはあるでしょう。

2014年3月1日土曜日

国際単位系(SI)と単位の換算

ボイラーやストーブで使われる熱やエネルギーの単位は国際単位系(SI)を使用することが義務づけられており、例えば、熱量はジュール(J)で表記する決まりになっています。しかし、これまでの「慣れ」や「感覚」の問題もあり、依然としてカロリー(cal)やワットアワー(Wh)で表記されることもあるため、整理しておかないと混乱します。

木質バイオマス利用ではとりあえず、以下のような単位と換算値を理解しておく必要があるでしょう。

■力
SI単位:ニュートン(N)
定義:1キログラムの質量をもつ物体に毎秒1メートルの加速度を生じさせる力

1 kgf(重量キログラム) = 9.80665 N(ニュートン)

※地表の重力加速度は約9.81m/s^2なので、質量1キログラムの物体の重量は約9.81ニュートンであり、この値が1重量キログラム (kgf)


■エネルギー
SI単位:ジュール(J)
定義:1ニュートンの力で物体を1メートル動かすときの仕事

1 J = 1 N·m(ニュートン・メートル) = 1 W·s(ワット秒)
1 cal(カロリー) = 4.1868 J(ジュール)
1 kWh(キロワット時) = 3.6 MJ(メガジュール) …1時間分のkW数、つまり3,600秒分

※熱も仕事も電気も全て「エネルギー」の一種でありジュールで表すことができる。石油や木質燃料の発熱量を表す単位は、以前はカロリーであったが、現在はジュール表記。


■仕事率
SI単位:ワット(W)
定義:毎秒1ジュールに等しいエネルギーを生じさせる仕事率、すなわち、1秒あたりに使用されているエネルギー(仕事)を表す

1 W(ワット) = 1 J/s = 1 N·m/s
1 kW(キロワット) = 860 kcal/h(キロカロリー/時)
1 仏馬力(PS) = 735.49875 W

※ワット(W)は、ボイラーや発電所、エンジン等の機器の規模(出力)を示す単位として用いられる。家庭用FF式ストーブは5kW程度、木質チップの温水ボイラーは50~500kW程度のものが多い。


■圧力
SI単位:パスカル (Pa)
定義:1平方メートル (m2) の面積につき1ニュートン (N) の力が作用する圧力または応力

1 バール (bar) = 100,000 Pa
= 100 キロパスカル (kPa) = 0.1 メガパスカル (MPa)
≈ 0.987 気圧(標準大気圧) (atm) ≈ 約1 標準気圧 (atm)

※圧力はイメージのしにくい単位ですが、自分は、1 標準気圧(atm)=約 0.1 MPaとして理解しています。蒸気ボイラーのゲージ圧力が1 Mpaを指していれば、そのボイラーは約10気圧の蒸気を発生している、という感じです。