木質バイオマス利用に役立つ忘備録です。これは!と思った情報を随時アップして参ります。

2014年8月19日火曜日

オーストリア製の薪ボイラーを見学しました

見学レポートが続きますが、今回は発電からガラリと変わって小規模に、家庭用の薪ボイラーを見学したお話です。

聞くところによると、欧州圏では薪ボイラーがたいへんなブームになっているそうです。たしかに、石油やガスのボイラーと違って自分で薪を準備したり、手作業で点火したりする手間はありますが、薪が手に入りやすい地域やご家庭にとっては、これ1台で給湯も暖房もまかなえる魅力的な選択肢といえるでしょう。

これは憶測ですが、欧州通貨(ユーロ)って一時期ほどではないにせよ、円に比べて安いですよね。安いユーロで海外から石油を買うと高くつきますし、欧州圏は様々な環境税が石油に課せられているらしい。要するに、欧州圏の皆さんは石油で暖を取ろうとすると、お金がかかって大変なんだと思います。しかも、冬が寒くて長い国ばかり。
それでも凍死者も出さずに、先進国として社会・経済・文化を保っているのは、きっと地域の資源を地域で活かす仕組みが成り立っているからではないでしょうか?まあ、ロシアからのガスパイプラインのおかげもあるかもしれませんが。このあたり、いつか現地を訪ねてこの目で確かめてみたいものです。

さて見学レポですが、新築されたばかりのこのお宅には、ご紹介する薪ボイラーのほか、居間には輸入品の薪ストーブが設置され、また、建築に使用した木材は地域材に限定、かつ十分な断熱仕様とするなど、施主とご家族の「想い」や「こだわり」が感じられる造りになっていました。
 
ボイラー室というよりも、お宅の勝手口に納まったコンパクトな機体。オーストリアETA社製、定格で20kW出力のタイプです。大きさは、高さ1,5m、奥行き1.0m、幅0.6mといったところ。

出力のイメージとして、ご家庭のFF式石油ストーブが5kW程度ですから、その4倍ほどの出力があることになります。これ1台で、一家の暖房・給湯が全てまかなえる計算です。

薪ボイラーをご家庭に設置する際、いった何kWの出力を選べば良いのか?貯熱(給湯)タンクは何リットルが適切か?といった計算については、改めて整理していきたいと思います。
メーカーのホームページから断面図を拝借。薪の燃焼方式は、いわゆる「ダウンドラフト式」と呼ばれるもので、図で①の一次燃焼室に詰めた薪を下側の④から着火、Aの吸引ファンを回して燃焼ガスを下側Eの二次燃焼室で燃やしてから、背後の煙管(図で螺旋状のコイルが入っている管)で周りの水に熱を伝え、最後に煙突で排出します。

このように、薪の下から火を点ける「ダウンドラフト式」にすることで、
1)木材を一次燃焼室でガス化、二次燃焼室で完全燃焼させクリーンかつ高効率な燃焼
2)薪が下から逐次に燃えていくので、投入した薪が一度に全部燃え上がることがない
3)そのため、必要な分のまとまった薪を詰めておくことができ、何度も途中で薪をくべる必要がない(もちろん、後から継ぎ足し投入は可能)
4)吸引ファンと一次・二次の空気量を調節することで、ある程度の出力制御が可能
といったメリットがあります。

また、このメーカーの特徴として、手動式の簡易な煙管内のスス払い装置を備えていることが挙げられます。図のとおり煙管内には螺旋状のコイルが入っていて、外のハンドルを動かすことで、煙管内のススを簡単に除去できるようになっています。煙管内部の汚れは熱効率に直結するだけに、簡便にして要領を得た設計といえるでしょう。
お湯は500リットルのタンクに蓄えられます。このお湯は、このまま直接給湯に用いられると同時に、暖房用の貯熱タンクを兼ねています。
各部屋へ暖房の温水を分派する「ヘッダー」と呼ばれる配管部分。当然、「行き」と「戻り」があります。
ボイラー背面の配管接続部。分かりにくくて申し訳ないのですが、温度計とサーモスタット付きのミキシングバルブが付いていて、これでボイラーに戻る水の温度を制御している模様です。このあたりにメーカーのノウハウがあるのでしょう。
さて点火です。点火作業は小学校4年生の長男の仕事とのこと。火を点ける「アソビ」は男の子にとってゲームよりもオモシロイのでは?妹さんも興味津々ですね。
着火の手順は、①一次燃焼室に必要量の薪を詰める、②スス払いハンドルを動かして煙管を掃除、③本体のスイッチを入れて吸引ファンを回す、④下側の点火口から古新聞で着火、⑤モニターパネルに表示される排煙温度が100℃になったら点火口を閉める、あとは自動運転になります。

男の子が説明しながら、やって見せてくれました。
着火した直後。焚き付けを用意するところは薪ストーブと同じです。
下段の二次燃焼室に向かってガスが吸引されている様子。
扉の絵を見れば点火の手順がわかるようになっています。難しいところはありません。
運転状況は上部の液晶でグラフィックに表示されます。
吸引ファンがあるとはいえ、煙突は保温したほうがドラフト(通風力)が出て良いようです。チップボイラーもそうですが、木質ボイラーはみな薪ストーブと同じ理屈です。
薪ボイラーの運転データは全てネット経由でETA本社に送られ、ETAのサーバから運転状況がリアルタイムで見られるハイテク仕様です。売った製品がちゃんと使われているかどうか、メーカーからまる分かり(笑)


岩手でも薪ストーブは一般的に見られるようになりましたが、こうした二次燃焼方式の薪ボイラーはまだ稀です。一方、寒くて長い冬を過ごす欧州圏の方々にとって、暖房と給湯が同時に得られる薪ボイラーは、少々贅沢ながらたいへんありがたい機器なのでしょう。そのニーズが、薪ボイラーをここまでハイテク機に進化させたのだと思いました。

ご覧のとおり使い勝手は極めて良く、薪を準備する以外にこれといった手間はかからないようです。冬が寒くて長いことは岩手も同じ。だとすれば岩手でも、薪ストーブが普及したその先には、こうした薪ボイラーが普及する可能性があるのでしょうか?

2014年8月3日日曜日

「ウッティかわいバイオマス発電」を見学しました(その3) 燃料の要件・価格と受入れ

ブログ更新が遅くなりましたが、今回は「ウッティかわいバイオマス発電」のバイオマス材受入れの要件・価格や、燃料供給の様子を整理したいと思います。

ご案内のとおり、「ウッティかわいバイオマス発電」が消費する木質燃料は年間9万トン程度ですが、このうち半分の4.5万トンは雫石町及び川井村の自社集成材工場から発生するチップでまかなう計画です。これら端材チップは、FIT法で区分されるところの「一般木質バイオマス」に相当し、この燃料から発生する電力は24円/kWhで買い取られる、とされています。

一方、残りの半分の4.5万トンは「間伐材等由来の木質バイオマス」を想定しており、この燃料から発生する電力は32円/kWhで買い取られる、とされています。

「間伐材由来の木質バイオマス」は、丸太のかたちで各地の素材生産事業体(要するに、山で木を切る仕事をする業者)が、ノースジャパン素材流通協同組合を通じて納入することになっています。個々の業者が個別に持ち込んだのでは、1)丸太の検収及び代金の決済事務が煩雑になる 2)発電所の需要に応じた安定的な供給が難しい、といったことから、ノースジャパンが業者を束ねて供給の任を担っていらっしゃるわけです。
併せてノースジャパンは、納入するバイオマス材について間伐材証明を取得・整理する役割も担っています。こうした仕組みは、合板工場に丸太を安定供給する取組みでも見られた手法ですね。

ちなみに、川井林業(雫石工場)及びウッティかわい(川井工場)の原木消費量は合わせて年間30万㎥の計画です。どちらも集成材工場なので、丸太→ラミナの歩留まりは50%程度、したがって年間15万㎥相当の端材チップが発生し、重さにするとおよそ12万トン、このうち4.5万トンが発電に回される計算です。残りはこれまで通り、製紙用チップとして遠く宮城県石巻市の製紙工場に運ばれることになります。
どうやら、安い製紙用チップを運賃をかけて石巻に運ぶより、発電所で24円/kWhで燃やしたほうが利益になるらしいです。それでも、川井林業ほどの大口供給者になると、発電に回すので明日から製紙用は供給ストップします、とはいかないのでしょう。

さて、ノースジャパン素材流通協同組合が示すバイオマス用素材の納入条件は以下のとおりです。
※2014年4月11日現在
(素材規格)
対象 :間伐材等由来の木質バイオマスのみ(間伐材・保安林材・森林経営計画材・国有林材 等)
品質 :バイオマス用素材(C材・D材)
樹種 :スギ・カラマツ・アカマツ(分別して納入)
径級 :6㎝以上、最大径級は上限なし
長さ :1.8m~2.2m
その他:枝・短コロは当面納入不可ですが将来的には納入可能予定です
(納入方法)
川井林業(本社)又は区界計量施設で重量を測定、指定の土場へ荷降ろしする
再度、空車重量を測定し納品書に重量等記入の上、提出する(納品書控えと計量伝票を受け取る)
(納入価格)
スギ・アカマツ  @4,500円/トン
カラマツ     @6,000円/トン
ただし、上記金額は消費税抜き
(流通手数料)
販売代金の3.5%を徴収します
(決済方法)
販売代金は25日締め翌月末に指定口座へ支払います

上記のとおり、納入価格はトン単位ですが、材積当りに換算(推計)してみましょう。
スギ・カラマツ・アカマツの絶乾比重をそれぞれ0.4・0.5・0.5、生材時の含水率(乾量基準)をそれぞれ100%、80%、100%とします。
すると、スギ=0.8トン/㎥、カラマツ=0.9トン/㎥、アカマツ=1.0トン/㎥となるので、
ス  ギ :4,500円/トン ☓ 0.8トン/㎥ = 3,600円/㎥
カラマツ :6,000円/トン ☓ 0.9トン/㎥ = 5,400円/㎥
アカマツ :4,500円/トン ☓ 1.0トン/㎥ = 4,500円/㎥
説明では「受入れ価格は製紙用材の相場に配慮した」とのお話でしたがまさにその通り、製紙用材より微妙に高めの設定にしてある模様です。
材積当りではスギよりもアカマツの単価が高くなっていますが、これは熱量単価に配慮した結果と見て良いでしょう。また、カラマツは生材でも含水率が低く絶乾比重も高いので、バイオマス利用しやすい材として評価していると考えられます。

長くなりましたが、場内のバイオマス材やチップ保管の様子など。
まず、計量施設(トラックスケール)で重量を測定。これは自社工場からチップを運んできたチップ車ですが、これも証明が必要なため、購入する丸太と同様、一律に重量を測定することになります。
チップ車からチップを降ろしている様子。チップ車のゲートを開けてフォークローダでその場に落としていきます。
チップ化前の丸太の様子。丸太の土場は数カ所に別れており、夏場はもっぱら天日乾燥させて水分を下げ、冬場の熱需要増大に備えているそうです。
バイオマス材の様子。丸太なら何でも構わない、といった様子です。
丸太はチップ保管施設内のチッパー(破砕タイプ)でチップ化されます。
広大な屋根付きチップ保管施設。何トン保管できるかは、聞き忘れましたスイマセン。
保管施設にペレットを発見。これは、集成材工場で発生する細かいノコ屑等をペレタイザーで固めたもの。こうした粉体はそのままでは取扱が厄介なため、ペレタイザーで固めてから運搬することにしたとの由。ペレットといっても粉の多いラフな性状で、ストーブ用として販売できる品質ではありませんでした。
燃料投入口には、集成材工場のチップ、ペレット、破砕した原木チップと様々な木質バイオマス燃料が混合され、ボイラーに流れていきます。

以上、3回にわたって「ウッティかわいバイオマス発電」の様子を見てきました。どうやら、関東・関西と比べバイオマス材の買取り価格が低いように思われます。それはおそらく、製紙用チップ材との価格差に配慮した結果と推測されますが、今後、この相場がどのように動いていくか注視していきたいと思います。

施設の稼働には様々なご苦労があったことは想像に難くありませんが、発電した電力が新丸ビル向けに供給する再生可能エネルギーとして直接販売されるなど順調に運営されている模様で、「今後、さらに電気料金が高騰するようであれば、自社工場向けに発電施設を増設することも考えたい」とお話されていました。
代表取締役の澤田令氏は、言ったことは実現する方なので、今後もウッティかわいの動向から目が離せませんね。