木質バイオマス利用に役立つ忘備録です。これは!と思った情報を随時アップして参ります。

2014年6月7日土曜日

灰とその取り扱いを考える(その4) 放射性物質が含まれる灰の危険性は?

今回は、放射性物質が含まれる灰、具体的には、前回お話しした指定廃棄物の基準に達する8,000Bq/kgを超えた灰を取り扱った場合のことを整理してみます。

1 そもそも放射能はどの程度なら大丈夫なの?
よく、「1年間で1ミリシーベルト以下なら安全」といったことが言われていますが、この数字の根拠は、 ICRP (国際放射線防護委員会)が2007年に出した勧告に基づくものです。

そして、具体的にこの内容を規制する法律として、経済産業省が所管する「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」 、同じく経済産業省が所管する「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」 によって規制がなされています。

【放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律】
この法律は、事業者が放射線を利用等する場合に適用される法律ですが、具体的には、使用施設の技術的基準として、敷地境界線で年間1ミリシーベルト(3ケ月間250マイクロシーベルト)を超えないように、必要な遮蔽壁その他の遮蔽物を設けることとする規制です。

【核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律】
この法律は、原子炉等を設置する事業者が順守しなければならない法律ですが、具体的には、当該事業者は施設に関して周辺監視区域を定め、柵で囲い表示をし、その中に人を住まわせてはならないとし、また周辺監視区域の外については、実効線量が、 1年間につき、 1ミリシーベルトを超えないものとする規制です。

なお、この1ミリシーベルトには自然放射線量(バックグランド値)は、含まれないとされています。要するに、人為的な被曝量として1年間で1ミリシーベルト以下とするべきである、ということになります。



2 8,000Bq/kgを超えた灰は発生するのか?
ところで実際に、8,000Bq/kgを超えた灰が発生することがあるのでしょうか?事業所の廃棄物と、薪ストーブの灰について見てみましょう。

【事業所の灰】
環境省「指定廃棄物処理情報サイト」の中に指定廃棄物の数量が逐次に掲載されています。合計14万トンあまり(平成26年3月31日時点)という、よくわからないような大量の放射能を帯びた廃棄物ですねww
ただし、8,000Bq/kgを超えた廃棄物の全てが指定廃棄物に指定されているわけではないので、その点はご注意ください。
この表の中の「焼却灰」とは、主としてゴミ焼却施設から発生した8,000Bq/kgを超えた灰の量を示しています。一方、ボイラー等のバイオマス利用施設から発生した灰は、「その他」に区分されています。

【薪ストーブの灰】
若干古いデータになりますが、こちらも環境省「東北地方及び関東地方における一般家庭等で使用される 薪及び薪の灰等の調査結果について」(平成24年2月24日)、これによりますと、

岩手県、宮城県、福島県及び茨城県の一部の薪の灰において8,000Bq/kgを超える放射能濃度が検出され、薪では最高値1,460Bq/kg、薪の灰では最高値240,000Bq/kgでした。また、排ガスの放射能濃度は1箇所を除き不検出でした。検出された1箇所についても、検出値は0.4Bq/m3でした。

とあります。薪→灰となるに従って放射性セシウムが灰の中に残り、結果的に濃縮されていることが分かります。元データはこちら


3 灰による被ばく量の計算
では、こうした灰を取り扱ったことによる被ばく、あるいは人体への影響はどの程度あるのでしょうか?これも環境省が調査を行っており、「薪ストーブ等の使用に伴い発生する灰の被ばく評価について」によると、

薪ストーブの使用に伴う子どもの被ばく線量は、灰が8,000Bq/kg(8Bq/g)の場合には0.00584 mSv/yに、灰が240,000Bq/kg(240Bq/g)の場合には0.1752 mSv/yとなる。
※240,000 Bq/kgは環境省において実施した薪及び灰の放射能濃度調査における灰の放射能濃度の最高値。

とあります。なお、この被ばく評価はある一定条件でのシュミレーションによるものですが、その条件はこちらの補足資料にあります。

240,000Bq/kgは測定データの最高値でめったに出る値ではありませんので、仮に灰が8,000Bq/kgの場合には年間0.00584ミリシーベルトの被ばくとなります。この値は年間1ミリシーベルトの線量を基準とした場合に比べずっと小さい値ですので気にするほどではない、ということになります。

要するに、灰を食べたりしない限り、一般的な取り扱いをしていれば、被ばくと呼べるほど人体への影響は無いわけです。ちょっと安心しましたね。


4 灰の利用又は処分にあたって注意
とはいえ、こうした灰の処分については注意が必要です。灰は「木灰」ですので、肥料として活用されていた方もいらっしゃるかと思いますが、こうした堆肥などについては、放射性セシウムによる農地土壌の汚染拡大を防ぐとともに、食品衛生法上問題のない農畜産物の生産を確保するため、農林水産省が、肥料や土壌改良資材、培土、そして飼料に含まれる放射性セシウムの暫定許容値を設定しており、その基準は400 Bq/kg(製品重量)となっています。
放射性セシウムを含む肥料・土壌改良資材・培土及び飼料の暫定許容値の設定について

なお、この数値の根拠はシュミレーションにより、肥料等の放射性セシウム濃度が400 ベクレル/kg以下であれば、たとえ同濃度の肥料等を40年程度施用し続けても、過去の農地土壌中の放射性セシウム濃度の範囲内である100ベクレル/kgを超えることがないことを基準としたものです。
肥料・土壌改良資材・培土の暫定許容値設定に関するQ&A

従いまして残念ながら、今回、一定の放射性物質降下があった地域では、灰を肥料として施用することは避けるべきだ、ということです。薪ストーブを使用することの直接の妨げにはなりませんが、木質バイオマスの循環利用の一部が妨げられてしまったことになります。。。


さて、次回からは、実際に岩手県内で生じた放射性物質による「負の連鎖」の事例を見ていくことにします。

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