木質バイオマス利用に役立つ忘備録です。これは!と思った情報を随時アップして参ります。

2014年12月21日日曜日

木質ガス化コジェネレーションを見学しました(その2)

前回に引き続き、ドイツSpanner社製の木質ガス化コジェネレーションに供給する、燃料チップの水分管理のお話です。

と、その前にドイツといえば先日、エネルギー関連で注目すべきニュースがありましたね。

■ドイツ最大のエネルギー企業はなぜ「解体」されるのか
~エネ業界最大手が原子力・火力から事実上の「撤退」~
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20141208/274831/?P=1

ドイツ最大手のエネルギー企業「エーオン」が、原子力や石炭火力発電から撤退して、自然エネルギーに注力するそうです。ドイツはエネルギーの民主化が進んでいるのですね。とはいえ、自分の目で確かめてみないことには何とも言えない、行ってみたいですねぇドイツやオーストリア。。。


さて、木質バイオマス利用では、大なり小なりその水分管理が課題となるわけですが、今回見学したガス化コジェネともなると水分管理はよりシビアで、仕様によると、適合するチップの含水率(乾量基準)は最大13%、水分(湿量基準)で12%ということになっています。

先にお話したとおり、天然乾燥を十分行った木材の含水率、いわゆる平衡含水率は日本の場合、屋外で15%程度と言われています。つまり、カラッカラに乾いた薪で15%ということですから、これ以上乾燥させるためには、何らかの人工的な乾燥を行う必要があります。あるいは、人工乾燥された製材品やラミナの端材をチップ化する方法も考えられますが、入手は難しいでしょう。

ところでガス化発電の場合、なぜこのような乾燥が必要かというと、高含水のバイオマスをそのまま用いればガス化反応温度が低下し、ガス化反応性の低下およびタール生成量の増加を招くためである、とされています。自分も、ガス化と水分の関係については知識が乏しいのですが、いずれにせよ、人工的な乾燥にエネルギーを使いすぎては、チップ供給からコジェネまでのトータルで見た場合、実質的に得られるエネルギーが目減りしてしまいます。チップの人工乾燥には、自然エネルギーや余剰熱を上手に活用したシステムが求められるでしょう。

現在のところ、このような低含水率の乾燥チップを供給する事業体を国内で求めるのは難しいところです。そのため見学した施設では、自前でチップを乾燥するためハウス等の施設を整備し、この問題に対応していました。
購入している燃料チップは、10トントラックで搬入されてくるそうです。ここからは見えませんが、ハウスの奥にコジェネ装置が隣接しています。ハウスの左右にチップが分けられていますが、これは通路という意味でななく、、、
ハウスの左右にはトンネルがあって、このトンネルから吹き出す温風がチップの間を通ってチップを乾燥させる仕組みです。送風ファンの前に放熱器(ラジエーター)があり、ここにコジェネからの余剰熱が通るようになっています。もちろんハウスの中ですから、ハウス内で暖められた空気の熱も利用できることになります。

ちなみにこの施設では、熱は暖房・給湯に使っても余ってしまい、他の施設に熱を供給することも無いので、このような形で熱を利用しても差し支え無いとのこと。ただし、冬場になると乾燥する熱が不足気味になるようです。
納入されたチップは、一般的な製紙用の切削タイプで、樹皮を含まない白チップでした。搬入したてのものなので、触った感じでもかなり湿っています。
ハウスで乾燥したチップはコジェネ装置の上にあるサイロに蓄えられます。ハウスからサイロへはダクトで風送しています。
サイロの底にあるチップをかき集めるアーム。これが回転することで、チップを搬送スクリューに落とし込むようになっています。
サイロにもコジェネからの温風を吹き出す設計になっていました。やはり、チップの水分管理には相当気を使っているようです。

ところでドイツ本国でも、コジェネを運用する側がこうしたチップの水分管理を行っているのでしょうか?施工した技術者に尋ねたところ、ドイツではこれまでのチップボイラー普及の歴史があり、乾燥したチップは熱量単価で評価されるので供給側のインセンティブとなり、運用する側でここまで対応する必要は無いとのことでした。ちなみに乾燥には、ソーラー熱を利用したサイロが利用されているとのこと。日本では日比谷アメニスさんが「ソーラードライシステム」として取組みをされていますね。
確かにこれならエネルギーを無駄にすることはありませんが、乾燥にかかる期間や、サイロへの出し入れの経費、そしてこれらが加味されたチップ価格でのコジェネ収支など、さらに掘り下げて検証してみる必要があると感じました。

逆にその技術者からは、「ドイツ人に出来て、日本人に出来ないことなど、無いでしょ!」などと、妙なハッパをかけられましたが、日本は高含水率チップに対応した温水ボイラーが普及しはじめたばかりで、人工的に乾燥したチップが燃料として普及するには、いましばらく時間がかかると思われます。

とはいえこうしたコジェネ施設は、地域自立型の電源としてとても魅力的で、太陽光や風力のように天候に左右されないという強みがあります。また、太陽光や風力では得られない「熱」が十分得られることも強みです。こうした自然エネルギー同士が補いあう形で連携すれば、地域によっては自然エネルギーだけで自立することも夢ではない、そんな想いをさせられた見学会でした。

2014年12月7日日曜日

木質ガス化コジェネレーションを見学しました(その1)

すっかり更新をサボってました。これでもイロイロと忙しくて!

これからも、施設見学や基礎知識を交えながらボチボチと続けて参りますが、今回は、小規模・分散型「木質ガス化コジェネレーション」の見学レポです。
ご存知のとおりコジェネレーションとは、熱源から電力と熱を生産し供給するシステムの総称のことですから、何も木質バイオマスに限った話ではありませんし、大規模なものでは、中国木材鹿島工場に隣接する神之池バイオエネルギー株式会社も、中国木材からのバークや端材で発生した電気と蒸気を、今度は中国木材(及び、近くの飼料工場)に供給しており、これも一種のコジェネレーションであり評価できる取組みでしょう。

木質バイオマス関係の識者の間では以前から、発電のみを評価し熱利用に繋がらない現行FIT法への批判があり、小規模・分散型のコジェネレーションを推進すべき、との意見が聞かれますが、じゃあ、その具体例・成功事例はというと、答えに乏しいのが正直なところかと思います。

ところで、「ガス化発電」というと国内では、木質バイオマスでまともに稼働している施設が、ほぼ見当たらないのが現状ではないでしょうか?しばしば、タール分やカーボン(煤)でガス化装置やガスエンジンが閉塞して不具合が発生、というケースを耳にします。ガス化発電に関して国内では、一種のトラウマのような雰囲気が漂っている感じです。(業者の方、スイマセン!)

ところが、今回見学したドイツ「Spanner(スパナー)社」のガス化コジェネレーションは、ドイツ国内で200台の納入実績、海外も含めると300台近い納入実績があり、さらに業績を伸ばしているとのこと。いずれにせよ、日本国内の現状と違いがありすぎる、その理由は何なのかを知りたくて、日本の納入第1号となる福島県郡山市某所の施設を見学して参りました。


まずは、コジェネレーション施設のスペックからですが、詳しくはこちらのHPをご覧いただくのが早いです。
■エコライフラボ 木質コジェネレーション Woodgas CHP

ざっとスペックを列挙(コピペ)しますと、
名称: エコライフラボWoodgasCHP45
発電能力: 45kW electric
ボイラー能力: 105kW thermal
燃料消費: 45kg/h
年間動作時間: 6000時間
年間燃料消費: 240トン
年間発電量: 15万kWh = 540GJ
年間発熱量: 30万kWh = 1.08TJ
燃料: 自然のままの木質チップ、乾燥済み
形状: 基準G30-G40
含水: 最大13%
細粉割合: 4mm以下最大30%

上記を簡単に訳せば、1kgのチップで1kWhの電力と約2kWhの熱が得られるシステムということになります。この熱効率をざっと計算しますと、含水率(乾量基準)13%=水分(湿量基準)12%チップの低位発熱量は約4kWhですから、エネルギー効率は(1kWh+2kWh)÷4kWh=75%ということになり、発電のみの26%と較べ段違い約3倍の高い効率になる理屈です。要するに、木質バイオマス資源を有効活用していることになりますね。
ただし発電だけを見ると、25%と同程度なのが不思議なところです。

発電能力45kWの規模ですが、一般家庭の年間消費電力を1戸当り4.2MWh/年(4,200kWh/年)程度とすると、45kW☓6000時間÷4200kWh/戸≒64戸分に相当します。
また、ボイラー能力105kWの規模ですが、一般的なFF式石油ストーブの出力は5kW程度ですから21台分に相当しますが、ただしこれは、21台のFFストーブが6000時間(250日)Maxで運転する意味ですから、相当な熱出力があることになります。

実際の運用では、一定時間を運転するとメンテナンスが必要になるため、装置を複数台、場合によっては10台以上並列に接続して、1台がメンテナンス中でも全体として支障なく運用できるようシステムを組むのがベターなのだそうです。そのようなシステムで、ホテルや公共施設の熱・電をまかなうのが、得意とする用途だと思われます。

YouTubuにも紹介ビデオがありました。かなりオモシロイです。
20 Spanner Re² wood cogeneration plants in Latvia

上の写真でお分かりのとおり、装置は配管むき出しで、外観からもおおよそ仕組みが理解できます。Spanner社のHPから図を勝手に拝借してますが、
1)チップは中央の筒に貯められる
2)右側のreformerでチップをガス化する
3)左側のgas-filterでガスを浄化する
4)ガス燃料はオットーサイクル(4サイクル)のエンジンを駆動し発電機を回す
といった流れになります。

ガスエンジンはV型8気筒(排気量は未確認です、スイマセン)の立派なもの、V8といえばF1エンジンのコスワース・DFV、あるいはマッドマックスのV8インターセプター並かよ!ってくらいカッコイイ代物ですが、以前見学した岩手県葛巻町のガス化発電ではV型12気筒のガスエンジンが接続されており、これだとフェラーリ並でさらにカッコ良くてしびれる(笑)、エンジンは求められる出力に応じて多気筒化するのだと思います。
手前の黒い部分がV8のガスエンジン、奥のグレーの箱が発電機です。男の子なので、こういうメカを見ていると楽しくて仕方がありません(笑)

自動車エンジンとの大きな違いを発見しました。それは、熱回収の仕組みです。
赤の点線で囲んだ2つの部分がプレート式の熱交換器で、上がエキゾーストマニホールド(排気ガスの通るパイプ)からの排ガスの熱を、下が冷却水からの熱を、それぞれ回収する仕組みになっているようです。自動車用エンジンの場合その目的は車の動力で、熱は排ガスやラジエーターから捨てるだけ(一部、暖房に使用)ですが、そんなマヌケなことはコジェネ屋はやらない、ということです。

そういえば、ガス化装置の側にも二重管式の熱交換器がついていました。ガス化の際に発生する熱も無駄なく利用するためですが、得られる熱量は、ガス化装置側よりもガスエンジン側から得られるほうが多いそうです。
ちなみに、装置の大きさは下の写真でお分かりになるかと思います。
以上、装置を見て参りましたが、課題は燃料となるチップの含水率だと理解できました。使用に適したチップの含水率(乾量基準)は最大13%となっていますが、天然乾燥を十分行った木材の含水率、いわゆる平衡含水率は屋外で15%程度と言われています。従ってこのシステムは、人工的に乾燥されたチップが必要なのです。

逆に言えば、乾燥チップさえ安定的に供給できれば、化石燃料にも原子力にも頼ること無く、地域で熱・電供給が可能となる理想的なシステムということになります。次回はこのシステムのチップ乾燥について整理してみたいと思います。

2014年9月15日月曜日

大分県日田市「天瀬発電所」を見学してきました

このところ林業や木材関係のニュースで、木質バイオマス発電のことが掲載されない日はありませんね。言うまでもなくFIT法の影響ですが、法律の威力ってすごいものだと思います。それだけに、責任も重大だと言えるわけですが。

バイオマス発電の計画も、発電効率を追って大型化する傾向にあるようです。例えば、
「住友商事、愛知県半田市に日本最大級のバイオマス発電所を建設開始」
http://plant.ten-navi.com/news/4070/

「愛知県半田市におけるバイオマス発電所建設開始について」
http://www.sumitomocorp.co.jp/news/detail/id=27923

愛知県のそれは、7.5万kWのバイオマス発電とのことですが、これって先日取り上げた「ウッティかわいバイオマス発電」の15倍ですよ!確かに5,000kW程度では本格的な発電所とは呼べないのかもしれませんが、それにしても、こんな巨大な規模でもバイオマスで動かせるんですね。

その秘密は何といっても、輸入チップやパームヤシ殻を燃料にしているからでしょう。現地で集積している未利用バイオマスを大量に仕入れて、コンテナ船で日本に運んで発電するわけですね。

バイオマスが集積している地域は途上国がほとんどでしょうから、エネルギーかけて日本に運ぶよりも、できることなら現地で発電して、その国の経済力や教育水準を高めることに使えば良いのになぁ、などと思ってしまうのは、自分が経済に疎いからでしょうか?商社の皆さんとか、たいへんなご努力をされていことは重々知りつつも、FIT法の影響力の大きさにモヤモヤしたものを感じてしまいます。


さて、前置きが長くなりましたが、先日、大分県日田市のバイオマス発電施設である株式会社グリーン発電大分「天瀬発電所」を見学する機会に恵まれたので、「ウッティかわいバイオマス発電」と比較しながらご紹介したいと思います。というのも、この2つの発電所はバイオマスの調達方法は異なるものの、規模的にまったく同一だからです。
まずは、発電施設のスペックなど。

■所在  大分県日田市天瀬町五馬市245-4
■発電出力  5,700kW(うち、施設内利用700kW)・・・一般家庭の10,000戸分相当(1戸当り4.2MWh/年として)
■ボイラー形式  流動層ボイラー
■実際蒸発量  25,000kg/h(ボイラー出力15,700kW相当)
■蒸気タービン形式  抽気復水タービン
■木質バイオマス使用量  60,000トン/年(全量、間伐材等由来の木質バイオマス)
■バイオマス買取価格  7,000円/トン(生材)

発電出力、ボイラー形式はほぼ同一。違いといえば、
1)「かわい」は利用するバイオマスの半分が自社工場の端材、残り半分が買取りだったのに対し、「天瀬」は全量が買取りとなっている。
2)バイオマスの買取り価格が、「かわい」が5,000円/トン程度であるのに対し、「天瀬」は7,000円/トンと高い。

こうしたバイオマス調達の違いを見ると、「天瀬」のほうが「かわい」よりも事業化のハードルが高かったような気がします。ただし、「天瀬」の立地する日田市の取組みとして、市内全域の森林で森林経営計画を策定済みであることが挙げられます。
これにより、日田市内から伐採された木材であれば、原則的に伐採届の手続きさえ行えば、間伐材等由来の木質バイオマス(間伐材・保安林材・森林経営計画材・国有林材)の認定を受けられることになります。
発電所としても、材の集荷範囲は半径50kmと想定しており、この範囲で無理なく操業できる規模として5,000kWクラスが選定されたそうです。これら認証材の証明書の管理・整理に相当な事務労力を費やしている、とのこと。

また、バイオマスの買取価格を7,000円/トン(生材)とし、水分の多寡は問わない決まりにしたそうです。例えば、雨の日に材を持ち込めば発電所としては不利になりますが、7,000円/トンの単価の中でこれを吸収しているとのこと。この単価は、材を集めるためのインセンティブとなるよう、かつ、他の製材業などを圧迫することのないよう、慎重に検討したとのことです。
なお、材積(㎥)と重量(トン)の換算係数は「1」、すなわち1㎥=1トンとしているそうで、これは事前に実測した結果によるとのこと。かなり水分の多い材を想定していることが分かります。

材の水分の多寡を問わない代わりに、「天瀬」には「かわい」に無い装備がありあます。それが、チップの水分を調整するロータリーキルンで、この装置のおかげで、多少水分の高い材であっても安定してボイラーで燃焼させることが可能となっています。
チップ化された材は、ロータリーキルン(右側の水平になった筒)を通ってボイラーに送られていきます。ロータリーキルンは木質チップの熱源(左側の縦の筒型のボイラー)で暖められていますが、この熱源は発電とは無関係でFITに算定されないため、建築廃材チップを使用しているそうです。

ちなみに、FIT対応バイオマス発電所の第1号といわれる福島の「グリーン発電会津」も、発電用ボイラーに投入する前段階でチップの水分調整をしていますが、「会津」はロータリーキルンではなくチップの搬送コンベアーを下部から熱する構造でした。「天瀬」は後発だけあって、より積極的に効率よく水分を調整する仕組みになっていると思いました。

バイオマス材の受入れはトラックスケールによるもので、「かわい」でもどこでも変わりありません。
敷地いっぱいに材が積まれていましたが、隣接地にまだ空きスペースがあるそうで、できれば2~3ヶ月分をストックし、天日乾燥させながら安定した発電を心がけたい、とのこと。
なお、燃焼灰は山林からの木材だけを燃焼させているため非常にクリーンで、廃棄物ではなく有価物として売却している模様。具体的に何の用途に売却しているかは企業秘密とのことでしたが、廃棄物として経費がかかるのと比べ、有価物として売却できることが経営上有利になっているとのお話でした。

まとめになりますが、やはり、他のバイオマス発電所と同様、熱利用がなされていないのが残念ですが、大分県日田市という林業が盛んな地域で、低質材の売り先として意義のある取組みであると評価できました。

この発電所が無かったら、この地域の低質材が7,000円/トンで売れることは無かったでしょう。九州はバイオマス発電計画が乱立気味の様相ですが、「天瀬発電所」は日田市の地域に根ざした発電所として、どうか末永く運営していただきたいと願うものです。

2014年8月19日火曜日

オーストリア製の薪ボイラーを見学しました

見学レポートが続きますが、今回は発電からガラリと変わって小規模に、家庭用の薪ボイラーを見学したお話です。

聞くところによると、欧州圏では薪ボイラーがたいへんなブームになっているそうです。たしかに、石油やガスのボイラーと違って自分で薪を準備したり、手作業で点火したりする手間はありますが、薪が手に入りやすい地域やご家庭にとっては、これ1台で給湯も暖房もまかなえる魅力的な選択肢といえるでしょう。

これは憶測ですが、欧州通貨(ユーロ)って一時期ほどではないにせよ、円に比べて安いですよね。安いユーロで海外から石油を買うと高くつきますし、欧州圏は様々な環境税が石油に課せられているらしい。要するに、欧州圏の皆さんは石油で暖を取ろうとすると、お金がかかって大変なんだと思います。しかも、冬が寒くて長い国ばかり。
それでも凍死者も出さずに、先進国として社会・経済・文化を保っているのは、きっと地域の資源を地域で活かす仕組みが成り立っているからではないでしょうか?まあ、ロシアからのガスパイプラインのおかげもあるかもしれませんが。このあたり、いつか現地を訪ねてこの目で確かめてみたいものです。

さて見学レポですが、新築されたばかりのこのお宅には、ご紹介する薪ボイラーのほか、居間には輸入品の薪ストーブが設置され、また、建築に使用した木材は地域材に限定、かつ十分な断熱仕様とするなど、施主とご家族の「想い」や「こだわり」が感じられる造りになっていました。
 
ボイラー室というよりも、お宅の勝手口に納まったコンパクトな機体。オーストリアETA社製、定格で20kW出力のタイプです。大きさは、高さ1,5m、奥行き1.0m、幅0.6mといったところ。

出力のイメージとして、ご家庭のFF式石油ストーブが5kW程度ですから、その4倍ほどの出力があることになります。これ1台で、一家の暖房・給湯が全てまかなえる計算です。

薪ボイラーをご家庭に設置する際、いった何kWの出力を選べば良いのか?貯熱(給湯)タンクは何リットルが適切か?といった計算については、改めて整理していきたいと思います。
メーカーのホームページから断面図を拝借。薪の燃焼方式は、いわゆる「ダウンドラフト式」と呼ばれるもので、図で①の一次燃焼室に詰めた薪を下側の④から着火、Aの吸引ファンを回して燃焼ガスを下側Eの二次燃焼室で燃やしてから、背後の煙管(図で螺旋状のコイルが入っている管)で周りの水に熱を伝え、最後に煙突で排出します。

このように、薪の下から火を点ける「ダウンドラフト式」にすることで、
1)木材を一次燃焼室でガス化、二次燃焼室で完全燃焼させクリーンかつ高効率な燃焼
2)薪が下から逐次に燃えていくので、投入した薪が一度に全部燃え上がることがない
3)そのため、必要な分のまとまった薪を詰めておくことができ、何度も途中で薪をくべる必要がない(もちろん、後から継ぎ足し投入は可能)
4)吸引ファンと一次・二次の空気量を調節することで、ある程度の出力制御が可能
といったメリットがあります。

また、このメーカーの特徴として、手動式の簡易な煙管内のスス払い装置を備えていることが挙げられます。図のとおり煙管内には螺旋状のコイルが入っていて、外のハンドルを動かすことで、煙管内のススを簡単に除去できるようになっています。煙管内部の汚れは熱効率に直結するだけに、簡便にして要領を得た設計といえるでしょう。
お湯は500リットルのタンクに蓄えられます。このお湯は、このまま直接給湯に用いられると同時に、暖房用の貯熱タンクを兼ねています。
各部屋へ暖房の温水を分派する「ヘッダー」と呼ばれる配管部分。当然、「行き」と「戻り」があります。
ボイラー背面の配管接続部。分かりにくくて申し訳ないのですが、温度計とサーモスタット付きのミキシングバルブが付いていて、これでボイラーに戻る水の温度を制御している模様です。このあたりにメーカーのノウハウがあるのでしょう。
さて点火です。点火作業は小学校4年生の長男の仕事とのこと。火を点ける「アソビ」は男の子にとってゲームよりもオモシロイのでは?妹さんも興味津々ですね。
着火の手順は、①一次燃焼室に必要量の薪を詰める、②スス払いハンドルを動かして煙管を掃除、③本体のスイッチを入れて吸引ファンを回す、④下側の点火口から古新聞で着火、⑤モニターパネルに表示される排煙温度が100℃になったら点火口を閉める、あとは自動運転になります。

男の子が説明しながら、やって見せてくれました。
着火した直後。焚き付けを用意するところは薪ストーブと同じです。
下段の二次燃焼室に向かってガスが吸引されている様子。
扉の絵を見れば点火の手順がわかるようになっています。難しいところはありません。
運転状況は上部の液晶でグラフィックに表示されます。
吸引ファンがあるとはいえ、煙突は保温したほうがドラフト(通風力)が出て良いようです。チップボイラーもそうですが、木質ボイラーはみな薪ストーブと同じ理屈です。
薪ボイラーの運転データは全てネット経由でETA本社に送られ、ETAのサーバから運転状況がリアルタイムで見られるハイテク仕様です。売った製品がちゃんと使われているかどうか、メーカーからまる分かり(笑)


岩手でも薪ストーブは一般的に見られるようになりましたが、こうした二次燃焼方式の薪ボイラーはまだ稀です。一方、寒くて長い冬を過ごす欧州圏の方々にとって、暖房と給湯が同時に得られる薪ボイラーは、少々贅沢ながらたいへんありがたい機器なのでしょう。そのニーズが、薪ボイラーをここまでハイテク機に進化させたのだと思いました。

ご覧のとおり使い勝手は極めて良く、薪を準備する以外にこれといった手間はかからないようです。冬が寒くて長いことは岩手も同じ。だとすれば岩手でも、薪ストーブが普及したその先には、こうした薪ボイラーが普及する可能性があるのでしょうか?

2014年8月3日日曜日

「ウッティかわいバイオマス発電」を見学しました(その3) 燃料の要件・価格と受入れ

ブログ更新が遅くなりましたが、今回は「ウッティかわいバイオマス発電」のバイオマス材受入れの要件・価格や、燃料供給の様子を整理したいと思います。

ご案内のとおり、「ウッティかわいバイオマス発電」が消費する木質燃料は年間9万トン程度ですが、このうち半分の4.5万トンは雫石町及び川井村の自社集成材工場から発生するチップでまかなう計画です。これら端材チップは、FIT法で区分されるところの「一般木質バイオマス」に相当し、この燃料から発生する電力は24円/kWhで買い取られる、とされています。

一方、残りの半分の4.5万トンは「間伐材等由来の木質バイオマス」を想定しており、この燃料から発生する電力は32円/kWhで買い取られる、とされています。

「間伐材由来の木質バイオマス」は、丸太のかたちで各地の素材生産事業体(要するに、山で木を切る仕事をする業者)が、ノースジャパン素材流通協同組合を通じて納入することになっています。個々の業者が個別に持ち込んだのでは、1)丸太の検収及び代金の決済事務が煩雑になる 2)発電所の需要に応じた安定的な供給が難しい、といったことから、ノースジャパンが業者を束ねて供給の任を担っていらっしゃるわけです。
併せてノースジャパンは、納入するバイオマス材について間伐材証明を取得・整理する役割も担っています。こうした仕組みは、合板工場に丸太を安定供給する取組みでも見られた手法ですね。

ちなみに、川井林業(雫石工場)及びウッティかわい(川井工場)の原木消費量は合わせて年間30万㎥の計画です。どちらも集成材工場なので、丸太→ラミナの歩留まりは50%程度、したがって年間15万㎥相当の端材チップが発生し、重さにするとおよそ12万トン、このうち4.5万トンが発電に回される計算です。残りはこれまで通り、製紙用チップとして遠く宮城県石巻市の製紙工場に運ばれることになります。
どうやら、安い製紙用チップを運賃をかけて石巻に運ぶより、発電所で24円/kWhで燃やしたほうが利益になるらしいです。それでも、川井林業ほどの大口供給者になると、発電に回すので明日から製紙用は供給ストップします、とはいかないのでしょう。

さて、ノースジャパン素材流通協同組合が示すバイオマス用素材の納入条件は以下のとおりです。
※2014年4月11日現在
(素材規格)
対象 :間伐材等由来の木質バイオマスのみ(間伐材・保安林材・森林経営計画材・国有林材 等)
品質 :バイオマス用素材(C材・D材)
樹種 :スギ・カラマツ・アカマツ(分別して納入)
径級 :6㎝以上、最大径級は上限なし
長さ :1.8m~2.2m
その他:枝・短コロは当面納入不可ですが将来的には納入可能予定です
(納入方法)
川井林業(本社)又は区界計量施設で重量を測定、指定の土場へ荷降ろしする
再度、空車重量を測定し納品書に重量等記入の上、提出する(納品書控えと計量伝票を受け取る)
(納入価格)
スギ・アカマツ  @4,500円/トン
カラマツ     @6,000円/トン
ただし、上記金額は消費税抜き
(流通手数料)
販売代金の3.5%を徴収します
(決済方法)
販売代金は25日締め翌月末に指定口座へ支払います

上記のとおり、納入価格はトン単位ですが、材積当りに換算(推計)してみましょう。
スギ・カラマツ・アカマツの絶乾比重をそれぞれ0.4・0.5・0.5、生材時の含水率(乾量基準)をそれぞれ100%、80%、100%とします。
すると、スギ=0.8トン/㎥、カラマツ=0.9トン/㎥、アカマツ=1.0トン/㎥となるので、
ス  ギ :4,500円/トン ☓ 0.8トン/㎥ = 3,600円/㎥
カラマツ :6,000円/トン ☓ 0.9トン/㎥ = 5,400円/㎥
アカマツ :4,500円/トン ☓ 1.0トン/㎥ = 4,500円/㎥
説明では「受入れ価格は製紙用材の相場に配慮した」とのお話でしたがまさにその通り、製紙用材より微妙に高めの設定にしてある模様です。
材積当りではスギよりもアカマツの単価が高くなっていますが、これは熱量単価に配慮した結果と見て良いでしょう。また、カラマツは生材でも含水率が低く絶乾比重も高いので、バイオマス利用しやすい材として評価していると考えられます。

長くなりましたが、場内のバイオマス材やチップ保管の様子など。
まず、計量施設(トラックスケール)で重量を測定。これは自社工場からチップを運んできたチップ車ですが、これも証明が必要なため、購入する丸太と同様、一律に重量を測定することになります。
チップ車からチップを降ろしている様子。チップ車のゲートを開けてフォークローダでその場に落としていきます。
チップ化前の丸太の様子。丸太の土場は数カ所に別れており、夏場はもっぱら天日乾燥させて水分を下げ、冬場の熱需要増大に備えているそうです。
バイオマス材の様子。丸太なら何でも構わない、といった様子です。
丸太はチップ保管施設内のチッパー(破砕タイプ)でチップ化されます。
広大な屋根付きチップ保管施設。何トン保管できるかは、聞き忘れましたスイマセン。
保管施設にペレットを発見。これは、集成材工場で発生する細かいノコ屑等をペレタイザーで固めたもの。こうした粉体はそのままでは取扱が厄介なため、ペレタイザーで固めてから運搬することにしたとの由。ペレットといっても粉の多いラフな性状で、ストーブ用として販売できる品質ではありませんでした。
燃料投入口には、集成材工場のチップ、ペレット、破砕した原木チップと様々な木質バイオマス燃料が混合され、ボイラーに流れていきます。

以上、3回にわたって「ウッティかわいバイオマス発電」の様子を見てきました。どうやら、関東・関西と比べバイオマス材の買取り価格が低いように思われます。それはおそらく、製紙用チップ材との価格差に配慮した結果と推測されますが、今後、この相場がどのように動いていくか注視していきたいと思います。

施設の稼働には様々なご苦労があったことは想像に難くありませんが、発電した電力が新丸ビル向けに供給する再生可能エネルギーとして直接販売されるなど順調に運営されている模様で、「今後、さらに電気料金が高騰するようであれば、自社工場向けに発電施設を増設することも考えたい」とお話されていました。
代表取締役の澤田令氏は、言ったことは実現する方なので、今後もウッティかわいの動向から目が離せませんね。

2014年7月13日日曜日

「ウッティかわいバイオマス発電」を見学しました(その2) 規模や発電効率を知る

労働安全衛生法では、ボイラーは蒸気ボイラーと温水ボイラーとに区分され、それぞれ異なる安全基準や取扱の資格が定められています。
蒸気ボイラーは発電施設だけでなく各種工場の熱源やクリーニング店などの産業用に、温水ボイラーは暖房や入浴施設の熱源などに用いられています。

蒸気ボイラーの出力は「最大蒸発量」で評価されます。これは、最大連続負荷の状態で1時間に発生する蒸発量(kg/h又はt/h)でその能力を示しています。
一方、温水ボイラーの出力は発生する「最大熱量」で評価され、単位はkW(キロワット)で示されることが多いです。
そして、発電所の規模は発生する電力で評価され、単位はkW(キロワット)やMW(メガワット)です。

以下では、「ウッティかわいバイオマス発電」を引き合いに、蒸気ボイラーと温水ボイラーの規模を比較するため「最大蒸発量」(kg/h)を「最大熱量」kW(キロワット)へ換算する方法を整理してみます。これを知っていると、自分が知っているボイラーの出力を思い出せば、計画中のボイラーなどおおよその規模がイメージできるからです。

また併せて、ウッティかわいバイオマス発電の発電効率を推測し、評価してみます。


■最大蒸発量(kg/h)→出力(kW)に換算
蒸気の発生に要する熱量は、圧力、温度によって変わってきますが、ボイラー定格の最大蒸発量は、そのボイラーが実際に給水から所要蒸気を発生させるのに要した熱量を、標準状態における水の蒸発潜熱(2,257kJ/kg)で除したもの、と規定されています。

逆に言うと、 水の蒸発潜熱(2,257kJ/kg)に定格の最大蒸発量を掛けると、そのボイラーが発生する熱量になります。
ウッティかわいバイオマス発電の場合は、
2,257kJ/kg ☓ 28,000kg/h = 63,196,000kJ/h

一方、熱量J(ジュール)と、仕事率W(ワット)との関係式は、
1J = 1W・s
つまり、1Wの出力で1秒間運転したエネルギー量が1Jですから、
1kW・h = 1kJ☓3,600s = 3,600kJ

したがって、最大蒸発量28,000kg/hのこのボイラー出力kWは、
63,196,000kJ/h ÷ 3,600 = 17,554kW

ただし、上記の水の蒸発潜熱(2,257kJ/kg)は近似値ですから、端数など含めますと、

※最大蒸発量(kg/h)→出力(kW)に換算する係数
最大蒸発量(kg/h) ☓ 0.626954 =出力(kW)

ウッティかわいバイオマス発電の場合は、
28,000kg/h ☓ 0.626954 = 17,554.712kW ≒ 17,500kW
暗算するときは、最大蒸発量kg/hの6掛け強の値でkWの値になる、といった感じです。

バイオマスの温水ボイラーには様々な規模がありますが、よく使われるのは小型で200kW程度、大きくて500kW~1,000kWといった規模のものです。発電用の蒸気ボイラーの出力がいかに大きいか、お分かりいただけるかと思います。

とはいえ、これが石炭火力発電所ともなると、ボイラーの出力は数100万kWありますから、バイオマス発電のさらに数十倍はあります。木質バイオマスでは実現できない規模です。


■バイオマス発電所の発電効率を推測する
まず、発電効率の定義です。

バイオマスに限らず、ボイラーによる蒸気タービンの発電では、
①燃料 ⇒ ②ボイラー → ③蒸気タービン → ④発電機 ⇒ ⑤電力

といった流れになりますが、一般的に発電効率とは、「ボイラーに供給した燃料の発熱量」に対する「発電機出力」の比と定義され、正しくは、「発電端熱効率」と言います。
また、供給した燃料の発熱量は、低位発熱量基準で評価するお約束になっています。

さて、上記のボイラー出力換算で、②のボイラー出力が17,500kWであることが判明しています。
また、④の発電機が発生する⑤の電力は、5,800kWであると表示されています。

一方、単位時間当りに投入されるバイオマス燃料の量や発熱量はハッキリしません。そこで推測ですが、①燃料が②ボイラーで蒸気熱に変換される効率を、他のバイオマス蒸気ボイラーの事例などから80%と推測してみます。

すると、①で投入される燃料の熱量は、
17,500kW ÷ 0.8 = 21,875kW ≒ 22,000kW

このときに発生する電力が5,800kWですから、この発電所の発電効率(発電端熱効率)は
5,800kW ÷ 22,000kW ≒ 0.26  すなわち、26%程度(推測)ということになります。

この数値が高いか低いか、ということですが、大型の石炭火力発電所の発電効率が40~43%などとされていますから、さすがにこれと比べれば低いということになります。しかしながら、石炭火力発電所の出力は数十万kWあるのが普通で、発電施設の大型化=高効率という常識からすれば、現状では妥当な発電効率と言えるのではないでしょうか。


■余ったエネルギー(熱)はどうなる?
もっとも、「ウッティかわいバイオマス発電」は発電のみの施設で、その熱を利用することが想定されていません。余った差し引き74%のエネルギーは、熱として周囲に放出されているわけです。そのため、発電施設ではあたりまえのことですが、施設の正面には蒸気を水に戻すための冷却塔がいくつも設けられています。

本当は、冷却塔で冷やす代わりにこの熱を、自社工場の木材乾燥に活かすことができればベターだったでしょう。実際、米マツ製材・集成材で国内最大手の中国木材株式会社・鹿島工場では、隣接地に神之池バイオエネルギー株式会社を設立し、鹿島工場で発生した樹皮や端材を神之池バイオに供給して発電し、その電力と蒸気を鹿島工場の電気と木材乾燥用の蒸気として利用する、という取組みを行っています。さらに、余った電力と蒸気は外部に販売するまで行っている、とのことです。

「ウッティかわい」も本当は、主力の集成材工場に隣接して発電所を建築したかったのだろうとは思いますが、様々な制約があり結局、雫石工場まで西に50km、川井の工場まで東に30km離れた当地に発電所を建築する判断に至ったのであろうと推測します。

なんだか、熱がもったいないですね。木材産業は「木」という重量・容積のかさむ原料を相手にするだけに、できれば、製材・加工とバイオマス利用をひとつにまとめてコンビナート化すると、熱や電気が上手に活用でき、さらに運搬コストも低減できたのだろうと思います。

どうせやるなら、もっと合理的な設備投資ができなかったものか。「ウッティかわいバイオマス発電」の場合も、なにか立地を規制するものがあったとしたら、これを緩和して差し上げることができなかったものだろうか。これが、施設を見学しての素直な感想デス。。。


次回は、「ウッティかわいバイオマス発電」のバイオマス材や燃料チップの受入状況などを整理してみます。

2014年7月12日土曜日

「ウッティかわいバイオマス発電」を見学しました(その1) こんな施設でした

自然エネルギー電力の固定価格買い取り制度、いわゆるFIT法により現在、全国で90箇所にも上る木質バイオマス発電所の計画が進められているそうです。木質バイオマス利用はこれまでもっぱら熱利用でしたが、FIT法で一足飛びに木質バイオマス=発電といった雰囲気になってますね。

岩手県内でもこの4月から、県内におけるFIT認定第1号となる「ウッティかわいバイオマス発電」が稼働しました。先日、この施設を見学する機会に恵まれましたので、その様子をレポートいたします。


まずは、発電施設のスペックです。

■所在  岩手県宮古市区界第4地割
■発電出力  5,800kW(うち、施設内利用800kW)・・・一般家庭の12,000戸分相当(1戸当り3.5MWh/年として)
■ボイラー形式  流動層ボイラー
■実際蒸発量  28,000kg/h(ボイラー出力17,500kW相当)
■蒸気タービン形式  抽気復水タービン
■木質バイオマス使用量  90,000トン/年(うち、自社チップ4.5万トン/年)
■設計・施工  株式会社タクマ


場所はココ。盛岡市から宮古市に入った国道106号線沿いにあります。
見学の際に配布されたシステムフロー図です。

このフローはいわゆるランキンサイクルで、蒸気発電所の最も基本的な蒸気サイクルとされ、(1) 飽和水を給水ポンプでボイラに供給する過程、(2) ボイラで等圧加熱を行い過熱蒸気にする過程、(3) 原動機 (一般には蒸気タービン) で断熱膨張を行なって仕事を発生する過程、(4) 排気が復水器中で等圧冷却されて飽和水となる過程、の4過程から成っています。
システムフロー図ではボイラーの構造が分からないので、メーカーのタクマさんのHPから図を拝借。
ううむ、かえって分からんか(笑)

流動層ボイラーというのは、熱媒体として硅砂(石英の砂)を高温の流動状態に保ち、この中に焼却物を投入することにより瞬時に完全焼却させる焼却装置だそうです。燃焼に必要な空気は砂の下から吹き込まれ、砂は絶えず動いているので燃料は砂とスレ合いながら燃焼、未燃分(灰)を残して完全に燃焼する理屈です。
砂は一定の周期で循環していて、外部に取り出されたときに灰を分離、再び炉内に戻される仕組みです。

蒸気を発生させるのは図に書いてあるたくさんの管で、 この管を水管(すいかん)といいます。管が上部で集合している丸い部分を蒸気ドラム、下部で集合している部分を水ドラムと呼びます。節炭器(エコノマイザー)で予熱された水は蒸気ドラムに入り、ボイラー内の水管を上下するうちに熱せられて蒸気となり、蒸気ドラムからタービンに送られていきます。蒸気になれない水は下部の水ドラムに落ちて、熱せられるごとに水管を登っていくわけです。ボイラー内にポンプのようなものを設けなくても、ボイラー水に自然循環を行わせる上手い仕組みです。

ボイラーは水管が埋め込まれた壁(水冷壁)で覆われていてるので、熱は全て水管に伝わる理屈です。この方式のボイラーを、曲管式水管ボイラーといいます。
タービンを回し終わった蒸気は復水器で冷却されて、再びボイラーに送られ循環します。

ボイラーの種類や構造については、また日を改めて整理することにして、今日は施設の写真など。
施設は、ボイラー棟と発電棟に大きく分けられますが、これはボイラー棟の中の様子です。高さは25m以上あり、複雑な管だらけでよく見えませんでした(苦笑)
排ガスはバグフィルターを通して排出。
発電棟の中の様子。手前の青緑色の箱にタービン、奥のクリーム色の箱に発電機が収まっています。
人の背丈よりも若干高いくらいの大きさで、正直、さほど大きな規模じゃないな、などと思ってしまいました(失礼)

なお、発生する灰は、大船渡市の太平洋セメントさんが引き取っていただいているそうです。放射能検査を逐次に行い、100ベクレル/kg以下であることを確認している、とのことでした。


次回は、この発電所の規模や発電効率を整理してみます。

2014年6月29日日曜日

放射能汚染の「負の連鎖」を断ち切る(その3) チップ工場の危機

前回お話した再生紙工場K製紙は、大小6つの製材所・チップ工場からバークを燃料として購入していましたが、このうち最も多くバーク燃料を納めていたW林業の対応を追って見ることにします。

標題の「負の連鎖」についておさらいしますと、
事故前は、チップ工場のバークが木質バイオマス燃料として、
バーク(チップ工場) → バークボイラー(再生紙工場) →  灰(セメント工場)
と滞りなく流れていたものが、放射性物質の影響により、
1)セメント工場が100Bq/kg以上の灰の受け入れを中止
2)再生紙工場のバークボイラーの灰が8000Bq/kgを超え指定廃棄物に
3)バークの汚染が原因と判明、再生紙工場がバークの受け入れを制限
4)受け入れ制限されチップ工場の行き場のないバークが場内に滞留
5)バークの滞留が3000トン(推定)に及び、チップ工場の稼働が危機に陥る
といった「負の連鎖」が生じたものです。

このチップ工場W林業は、チップ原料用の丸太取り扱い量が年間約3万トン、バークの発生量は年間約2,400トンバークは素材丸太の約8%)といった規模の工場です。
発生したバークはこれまで、家畜の敷料(最終的には堆肥になる)及びK製紙のボイラー燃料で、およそ半々ずつ販売されていました。

しかし、福島第一原発の事故後に、K製紙からの指摘を受けてバークの放射線量を測定したところ、丸太の産地やロットによってバラつきはあるものの、およそ500~800ベクレル/kgの汚染が確認されました。
このことにより、バークは家畜の敷料として出荷ができなくなり(堆肥の基準は400ベクレル/kg以下)、また、上記4)の受け入れ制限によりK製紙のバーク燃料の買い取り量は半分になりました。

W林業も他に受け入れ先は無いかと必死に探しましたが、放射性物質を帯びたバークの引取先などあるわけも無く、1年近くあれこれ探したり悩んでいる間にバークは次々に堆積し、ついには3,000トン近くが工場内に堆積することになりました。これによりW林業は、

1)山積したバークが原料の丸太の置き場を圧迫し業務に支障
2)高く積み上がったバークが発酵熱により発火するおそれ
3)汚染物質を堆積していると地域住民から苦情が出るおそれ
4)廃棄物処理が不適切であると保健所から処分されるおそれ
5)敷料やバーク燃料として販売していた利益の損失
といったリスクが急激に高まり、やむを得ず、市役所にその窮状を訴えることになりました。

このうち、5)の販売利益は諦めたとしても、3)の苦情や4)の行政処分を受ければ会社の存続が危うくなります。
また、2)の発酵熱による発火というのは本当の話で、これは火災原因のうち自然発火に分類されるものですが、バークやチップを屋外に集積した場合、内部に雨水等が徐々に溜まり微生物による発酵熱を生じ、その発酵熱の蓄積に伴う自然酸化により発熱・発火に至ることがあるのです。一説には、堆積する高さが5m以上になると、特に夏場は危険であると言われています。
なお、丸太の場合は、内部に雨水が溜まることは無いので、積み上げても自然発火の心配はありません。

事例:発電所敷地内で集積・保管していたチップ材の火災について

このため、堆積したバークは早急に処分する必要があったのですが、引き取り手が無いとなると、有価物(資源)であったはずのバークが産業廃棄物扱いになり、その処分費用は、最寄りの「いわてクリーンセンター」の場合「木くず」に分類され、処理費用は10kg当り90円、これが3,000トンともなると、
90円 ☓ 1,000kg/10kg ☓ 3,000トン =  2,700万円
にも膨れ上がり、これに運搬費用もプラスされるとなると、W林業にとっては廃業するか夜逃げするかといったレベルです。

W林業はその後、行政の指導を受けながら、東京電力の福島原子力補償相談室と協議を重ねた結果、処分費用については満額、販売利益の損失についても一部、補償を受けることになりました。
ただし、東電から処分費用が支払われるのは、処分を開始してからその金額を精算した約半年後となるため、多額の処分費用の立て替えも容易なことではありません。ここでは、国(林野庁)が被害を受けた製材事業体のために用意した無利子資金を運用することで、現在も処分を進めながら、なんとか事業を継続している状況です。

バーク燃料を購入しているK製紙にしても、バークに代えて購入している建築廃材の価格が高く、品質も供給も不安定であるため、早く元のようにバークを買い取りたいのですが、指定廃棄物をこれ以上増やさないためには当面、バークの買い取りは制限せざるを得ない状況が今も続いています。。。

2014年6月22日日曜日

放射能汚染の「負の連鎖」を断ち切る(その2) 再生紙工場の苦悩

前回お話した再生紙工場、K製紙の製品は古紙再生100%のトイレットペーパーですので、木材を直接原料として使用しているわけではありませんが、収集した古紙を溶解・脱水する過程で必要な熱源としてバークボイラーを40年以上にわたって使用してきました。K製紙がバークを燃料として買い取ってくれるおかげで、地域のチップ工場や製材所はバークの処理や再利用に頭を悩ませることなく、安心してチップ生産や製材に取組むことができたといえるでしょう。
福島第一原発事故の後、立木のバークに付着したセシウムが灰に濃縮されることを、事前に理解し対応できた事業体は少なかったと思います。K製紙の対応を時系列で整理すると次のようになります。

■K製紙の対応の経緯
1)H23.3 セメント工場への灰の受入れが不可となりK製紙の場内で保管を行う。
2)H23.6 灰の放射性物質濃度を測定、15,000ベクレル/kg程度の汚染を確認する。
3)H23.7 燃料のバークに付着したセシウムが原因と判断、バークを制限し建築廃材を購入
4)H23.9 保管している灰について県へ報告書を提出。
5)H24.1 8,000ベクレル/kg以上の灰を指定廃棄物に登録する手続きを開始。
6)H24.5 環境省東北地方環境事務所の現場視察を受ける。
7)H24.7 保管していた灰について指定廃棄物の指定を受ける
8)H24.8 環境省の指導を受け所定の方法により指定廃棄物の保管(工場外の敷地)を開始。
9)H25.6 保管場所を工場内の敷地(屋外)に変更。
10)H25.12 保管場所を製品倉庫(屋内)に変更。

いやはや、K製紙にとっては災難としか言いようがありません。

バークの受入を制限しその不足分を建築廃材にシフトした結果、その後は指定廃棄物となる灰は発生していませんが、それでもトータルで275.8トンの指定廃棄物となる灰が発生してしまいました。
この数量は、環境省の「指定廃棄物処理情報サイト」の指定廃棄物の数量に示されています。このうち岩手県の数量の「その他」を見ると275.8トン(平成26年3月31日時点)と記載されていますが、この数量は全てK製紙から発生した指定廃棄物ということになります。
ちなみに、岩手県の欄の「焼却灰」とある193.1トンは全て市町村のゴミ焼却施設から発生した指定廃棄物です。したがって、岩手県内の民間事業体で指定廃棄物の指定を受けたのは、K製紙ただ1社ということなのです。
実のところ、8,000ベクレル/kg以上の廃棄物は、K製紙以外のところにも存在します。指定廃棄物となることを恐れて測定を避ける事業体がある中で、いかにK製紙がこの問題に真摯にかつ実直に取り組んだか、お分かりいただけるかと思います。

K製紙が被った被害は多岐に渡りますが、整理しますと、
1)安価なバーク燃料から建築廃材にシフトしたことによる燃料費の増大
2)セメント工場の原料であった灰が、産業廃棄物となって処分費用24,000円/トンに増大
3)灰をはじめ、ばい煙や周辺環境などの放射線測定経費と手間
4)指定廃棄物の保管のための経費や工場敷地、はては製品倉庫まで保管場所に取られる。
5)地域住民から不安視され、工場の立ち退き運動が起きる寸前まで追い込まれる。

上記の1)から3)までは、東京電力に掛かり増し経費の請求を行っていますし、また、4)については環境省から保管に要する経費の補填を受けていますので、金銭的には一応の解決を見ていますが、こと5)に関しては地域の民間企業として極めて厳しい局面に立たされました。

というのも、地域住民の一部には従前からこの工場が出すばい煙や騒音(いずれも規制をクリアしている)を快く思わない方々も居たのです。そして、こうした方々を背景に某市議会議員がこの指定廃棄物問題を騒ぎ立て、はては県の某○○振興センター所長からは「木質バイオマス利用は指定廃棄物の増大につながる、行政として推進できない」などとする見解まで飛び出す始末で、こうした動きに追い詰められたK製紙は、「ボイラーも40年近く稼働し老朽化していることだし、この際、重油ボイラーに切り替えたい」などと、すっかり弱り切った状態になっていました。

しかし、K製紙のような真摯で実直な企業が不当に立ち退きを強いられて良いはずがありません。そのためK製紙は平成25年10月に、環境省東北地方環境事務所や県・市の関係者の同席による地域住民説明会を開催し、その中でこれまでの経緯をありのままに説明し、理解を求めることを行ったのです。

住民からは、厳重な保管状況などから数値上は安全性に問題が無いことが理解されたものの、「地域住民への周知が遅い!」との不満の声が上がりました。
しかし、同席した環境省東北地方環境事務所の責任者から、「周知の遅れは我々環境省側の指導不足にあり、K製紙に責任は無い、どうかご理解いただけないか」と、最後は環境省側が泥をかぶってくれたおかげで、なんとか住民の理解を得て、現在も継続的に放射線量をモニタリングしながら操業している状態です。

もし、K製紙が操業停止や撤退、あるいはバークボイラーを使用しないことになれば、地域のチップ工場や製材工場はバークの行きどころが無くなり、ただでさえ採算性の厳しいこれら木材関連の事業体に悪影響が及ぶところでした。
といっても、現在でもバークの受け入れ制限は続いており、バーク燃料を納めているチップ工場にはいまだにその悪影響が及んでいる状況です。

次回は、このチップ工場に及んだ負の連鎖を整理してみることにします。

2014年6月14日土曜日

放射能汚染の「負の連鎖」を断ち切る(その1) 何が起きたのか?

突然ですが、テレビ番組『ザ!鉄腕!DASH!!』の人気コーナー『DASH村』で、“農業の達人”としてTOKIOの指導役を務められていた三瓶明雄さんが、6月6日朝に急性骨髄性白血病のため亡くなったそうです。享年84。
ご存知のとおり、『DASH村』のあった福島県浪江町は、福島第一原発事故により計画的避難区域となってしまいました。晩年の明雄さんはTOKIOメンバーとともに各地の農業を見て回っておられましたが、テレビ画面からも明雄さんの「故郷に帰りたい」という気持ちは、痛いほど伝わってきたものでした。
故郷を追われ、失意のうちにその生涯を閉じた明雄さん。その胸中をお察し申し上げますとともに、心よりご冥福をお祈りいたします。


さて今回から、放射能汚染が木質バイオマス利用に及ぼした悪影響と、これを克服するための取り組みを、具体的な事例を見ながら整理してみたいと思います。

具体的とは、いったいなにが起きたのか?図で示すと次のようになります。

事故前は、チップ工場のバークが木質バイオマス燃料として、
バーク(チップ工場) → バークボイラー(再生紙工場) →  灰(セメント工場)
滞りなく流れていたものが、放射性物質の影響により、
1)セメント工場が100Bq/kg以上の灰の受け入れを中止
2)再生紙工場のバークボイラーの灰が8000Bq/kgを超え指定廃棄物
3)バークの汚染が原因と判明、再生紙工場がバークの受け入れを制限
4)受け入れ制限されチップ工場の行き場のないバークが場内に滞留
5)バークの滞留が3000トン(推定)に及び、チップ工場の稼働が危機に陥る
といった「負の連鎖」が生じたものです。
これは、困難に立ち向かう男たちの真実のドラマである。(ちょっとオーバーかな?)


今回はまず、セメント工場と灰のことを整理してみます。

これまで事業所の灰は原則として産業廃棄物となることをお話してきました。ですが、灰にはセメントの基材として活用するという良い方法があります。

木材の焼却灰に限らず、ゴミの焼却灰であっても、焼却灰にはセメント共通の化学成分が含まれています。灰に不足している石灰石(酸化カルシウム源)をたして高温で焼き上げたものが「エコセメント」として一般に流通しています。

ところが福島第一原発事故後に、エコセメントの一部に放射性物質の汚染が認められたため、国土交通省がシュミレーションを行った結果、放射能濃度が1000 Bq/kgのセメントを使用して製造されたコンクリートの床、壁、天井で囲まれた居住空間における被ばく線量は0.36 mSv/年と評価されたそうです。
出典: 福島県内の下水処理副次産物の当面の取扱いに関する考え方について

この値は、前回お話しした1 mSv/年の許容量に比べ1/3程度の小さい値ですが、それでも、その他食品や人為的な他の影響のことを考えるとビミョーな数値といえます。そのため一般社団法人セメント協会は、「セメントの段階でクリアランスレベル以下とすることが必要である」とし、会員各社に周知を行いました。
ここで言うクリアランスレベルとは、「セシウム134とセシウム137の放射能濃度の和が100Bq/kgである」としています。これにより、国内のセメント工場は100Bq/kg以上の灰の受け入れを中止しました。
出典:放射性物質が検出された下水汚泥、浄水発生土のセメント原料の利用について

以前に、灰の発生量は、木材の絶乾重量当り、木部では0.2~0.7%、樹皮では2~7%、おおざっぱに、木部で0.5%、樹皮でその10倍」とお話しましたが、バークボイラーの灰が100Bq/kg以下となると、バークの段階で5Bq/kg以下というごく低濃度でないとクリアできないことになり、これでは関東から南東北にかけての樹木でクリアすることはまず不可能でしょう。

100Bq/kg以上の引取り中止を示された再生紙工場は、さっそく自社のバークボイラーから出た灰の放射性物質濃度を測定してみました。すると、驚くべき結果が現れたのです。

次回は、この再生紙工場の苦悩とその対応を追って見ることにします。